テレビ朝日の看板アナウンサーを突然引退し、32歳からフローリストに転身した前田有紀さん。好きなことを仕事にする――そんな人生に憧れたものの、自分が好きな花の仕事で食べていけるようになるまでには、多くの試行錯誤があった。現在は表参道と鎌倉駅近くに2つの実店舗を持ち、自身のフラワーブランドを通じて着実に歩みを進める。
やりたいことがつかみきれなかった20代、自分の「好き」と自分らしい働き方を模索し続けた30代を経て、いま。彼女の歩みには、迷いながらも進む人たちへのヒントが詰まっている。
自分の人生を、最大限に輝かせてみたい

前田:横浜市内に生まれ育ち、都内の小学校に通っていたため、森や草原、お花畑などは昔から“憧れ”の景色。自然への興味が高じて、高校1年生のときにはモンゴルにも行きました。司馬遼太郎さんの『街道をゆく モンゴル紀行』を読んで、自分の目でその景色を見てみたいと思ったのがきっかけです。
前田:乗馬を習っていて、乗馬クラブのような柵がない、広い場所をどこまでも馬で走ってみたい、という思いもありました。そうして訪れたモンゴルは、360度広がる草原に、ハーブのいい香りがして……ゲル(モンゴルのテント)で寝泊まりをして、馬に乗り、満天の星空を眺める。そんな毎日が本当に幸せで、価値観が変わりました。
前田:私の日常だった都会では、ほしい服やカバンなどの“モノ”を通じて幸せを得ているような気がしていたけれど、大自然の中で生きるモンゴルでの生活でも、私はちゃんと幸せを感じられた。だから、自分には「自然に関わることで満たされる」という価値観があると思ったんです。
それから、自然と共存する土地の文化をもっと知りたくなり、大学ではアジアについて学ぶことを決めました。慶應義塾大学の総合政策学部に入学して、インドネシア語を専攻し、東南アジアの開発を研究するゼミにも所属していましたね。

前田:就職活動をするときはまだ将来設計がぼんやりしていて、テレビ局や広告代理店、商社といった大きな会社を、いろいろ受けてみようと思っていたんです。ただ、テレビ業界で記者として働いていた姉から「365日、同じ日が1日もなくて楽しいよ」と言われたのをきっかけに、テレビの仕事にはとくに興味を持っていて。世界中のニュースが飛び込んでくる現場なら、自然関係のテーマにふれる機会もあるだろうと考えていました。
それで就職が決まったのが、テレビ朝日のアナウンサー。とんとん拍子で内定をいただき就職が決まり、これほどご縁があるのなら、ここで力を発揮できるよう頑張ろうと思ったんです。
前田:スポーツやバラエティの番組を多く担当して、世界が大きく広がりました。とくに“自分の好きなことを突き詰めてお仕事にしている方”との出会いが、私に大きな影響をもたらしたと思います。
アスリートや芸人さんなど、自分の好きなことを仕事にしている人たちは、本当にきらきらしています。厳しい世界で大変なこともたくさんあるだろうに、みんな目が輝いている。
私も本当に好きなことを仕事にできたら、人生はどれだけ変わるんだろう。自分の人生を、どこまで輝かせることができるんだろう……と、気づけば好奇心にも似た気持ちを抱くようになっていました。