子どもを産んでも、大好きな仕事を続けるためのマインドシフト

前田:じつは第一子を産んだとき、仕事はほとんど休まなかったんです。せっかく自分のやりたいことを求めて転職して、ようやく少しずつ実りはじめたときだったから……産休や育休で立ち止まったら、身に着けたことが失われてしまう気がしました。
ただ、出産を機に引っ越してきた鎌倉には、個人商店を営みながら子育てをしている人も多くて……生活と仕事とが密接にかかわりながら暮らす人が多いんです。そんな人たちの姿には、とても勇気づけられました。自分も工夫次第で、うまく働き続けていけるような気がして。せっかく見つけた大好きなことを辞めないために、両立の道を探っていきました。
前田:しいて言うなら完璧を目指さず、「できるかぎりのことを精いっぱいやる」ように自分の意識を変えました。
たとえば、毎朝仕入れのために市場へ行くんですが、以前は誰よりも早く出向いて、一番いいお花やめずらしいお花を仕入れたいと思っていた。でも、子育てをしていると毎回早く行くのはどうしても難しい。そんなとき、いままでどおりできないことを嘆くのではなく、目の前にあるお花からベストを選ぶ意識を持つんです。
プライベートでも完璧を目指さないことはすごく大事。去年からはお花だけでなく庭づくりにもチャレンジしてみたくて、造園の勉強もはじめましたが、子育てしながら勉強するのはなかなか大変です。だから毎日バタバタしているけれど、無理はしません。本当に時間がないときは、潔く家事を手抜き(笑)。それでも一度きりの人生だから、やりたいと思ったことは諦めずに、できる方法を探したいと思っています。

前田:そうだと思います。たまに「好きなことを仕事にするにはどうすればいい?」というご相談を受け、講演会などで自分の経験をお話することがあって。経歴だけを読むと、アナウンサーを10年やってパッと辞めて急に花屋になった……みたいに見えるんですが(笑)、自分なりに小さなステップをいくつも踏んで、時間をかけて見つけたのがこの道。これからの人生を考えている方に、私の例が参考になればうれしいですね。
前田:表参道と鎌倉のお店は、地域の人に愛されるようなかたちで、少しでも長く運営していきたいと思っています。お花を届けることで誰かを癒したり、明るくしたりしていきたい。それはやっぱり、自分自身がお花に助けてもらった経験があるからです。いまの仕事は、根幹のところできっと、自分自身とつながっているんじゃないかなと思います。


前田有紀
10年間テレビ局に勤務した後、2013年イギリスに留学。コッツウォルズ・グロスター州の古城で見習いガーデナーとして働いた後、都内のフラワーショップで3年の修業を積む。2021年4月に神宮前にNURをオープン。2022年5月に初の著書「染めの花 フラワーデザイン図鑑」(誠文堂新光社)を出版。2025年4月に鎌倉にgui flowerをオープン。
執筆:菅原 さくら 撮影:梶 礼哉