アスリートが海外遠征する際、チームにはさまざまな肩書の人たちが集まる。そのなかでも必要不可欠といえる存在、それが「通訳士」だ。外国語を話せないアスリートに代わって意志をすくい、また監督やコーチの意図をわかりやすく伝える。まさに「通訳士」とは言語の橋渡しをする人である。

その“橋渡し”を仕事として、日本と海外を行き来しながら活躍する女性が湘南の地にいた。小谷野だいあさん。幼い頃から外国語への憧れを抱き、ひょんなことから「スポーツ通訳士」という肩書きで働き始めた彼女は、どんな人生を歩んできたのか。その道のりから、好きなことを仕事にすること、そして自分らしく働くことについて探っていきたい。


アスリートを支える、スポーツ通訳士という仕事

画像: アスリートを支える、スポーツ通訳士という仕事
――「スポーツ通訳士」とはどういうお仕事なのか、あらためて教えていただけますか?

小谷野:ひとつのスポーツは選手だけで成り立つものではなく、さまざまな人たちが関わっています。監督、コーチ、トレーナー、栄養士、スポーツドクター、マネージャー……。いずれも大事な役割の人たちですが、通訳士もそのひとりだと考えています。

いま、AIが急速に発達していることもあって、「そのうち通訳という仕事は無くなっちゃうよ」なんて言われたりもしますが、スポーツの現場においては無くならないんじゃないでしょうか。スポーツ通訳は決して機械的に通訳をするのではなく、状況を判断して、相手の気持ちを汲み取り、それをアスリートに伝えます。たとえば外国人監督がどんな思いを込めて発言しているのか、その雰囲気やニュアンス、背景にまで気を配って通訳するんです。だからきっと、AIには難しいのではないかと。単に言葉を伝える仕事ではなく、想いを伝える仕事だと思っています。

ちなみに、実は「スポーツ通訳士」って、検索してもあまり情報が出てこないんです。つまりそれは、この職業が世間に知られるチャンスが少ないということ。でも非常に重要な職業でもある。だから私は、敢えて「スポーツ通訳士」と名乗るようにしています。

――小谷野さんが「スポーツ通訳士」として通訳をする際、大切にしていることはなんですか?

小谷野:もちろん言葉を正確に訳すのは大事なことですが、言語や文化の異なる人たちの距離を埋めるために空気を読み、適切な言葉を選ぶことを意識しています。言葉を一字一句訳すよりも、それぞれの人の出身国や文化、ルールを把握した上で通訳することが重要なんです。

――そのためには他文化への理解が非常に大切なのではないでしょうか。

小谷野:そう思います。同じ日本人だとしても育ってきた環境によって考え方が異なるのだから、ましてや国が異なれば常識やルールが通用しないのも当然です。それを加味せず、たとえば外国人コーチの発言をそのまま直訳すると、日本人アスリートにはとても失礼に聞こえたり、あるいは仰々しく響いたりします。もちろん、その逆もありますよね。だから神経を尖らせ、雰囲気を読み取りながら、適切な言葉を選択していく必要があるんです。

――「スポーツ通訳士」は、ただ英語と日本語を変換するだけでなく、チームを構成するためのプロフェッショナルなんですね。

小谷野:ただし、舞台に立つのはあくまでもアスリートです。私はそのサポートをしている立場。その上で、アスリートが力を発揮して、結果を残すことで、新しい舞台を見せてもらえるのが本当にうれしいんですよね。

私は元々スポーツが大好きなんですが、自分では結果が残せない。体育の成績も、小さい頃から全然ダメで(笑)。だから大舞台で闘っているアスリートの姿を見ていると、自分にはできないことを体現してくれているような気持ちになります。

それが普段から関わっている人たちであればあるほど応援する気持ちが込み上げてきますし、彼ら彼女らのためにスポーツ通訳士として頑張ろうと励まされるんです。そしてなにより、チームの一員として誇らしい思いがします。それって、本当に幸せなことですよね。

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