「 話し方教育 」をすべての人へ。ひとりでは見られない未来へ

千葉:私はつわりがひどく、妊娠中は入院が必要な状況で……しかもそれが出産のその日まで続きました。それまで200%の力を仕事に注いできましたが、やり方を変えずに続けることは叶わなくて。仕事がままならない日が続き、想定していたよりも早く仲間に仕事を託すことになりました。
仲間たちは、代表の私がいない中で、「自分たちが託された」という覚悟をもって会社を支えてくれました。私は私で「仕事から離れる、会社を託す」という覚悟をもって出産に臨んだ。そして全員の覚悟が「代表不在でも会社が成長し続ける」という素晴らしい結果をつれてきてくれました。
人を頼るって、自分にとっても周りにとっても、きっとポジティブなこと。そう思えるようになってから、見えるものが広がった気がしています。
千葉:ひとりで抱えないで、頼ってよかったと思いますね。でも今思い返すと、「誰かを頼る覚悟」がきっかけになって景色が変わったことは、これまでいくつもあったのかもしれません。
例えば、話し方教育事業は私だけを指導者として、個人事業主として運営していくこともできました。でも、そうしてしまうと届けられる範囲に限界があります。だからスタートアップとして資金調達し、頼れる仲間を増やして拡大していく覚悟を決めた。あの選択は大成功だったと、今自信を持って言えます。

千葉:私は話し方を学んで人生が変わりました。でもこれはラッキーで、たまたま受験に落ちて入学した高校に弁論部があって、学べる環境があったからにすぎません。現状、話し方の学習に触れられる人の母数はとても少ないです。この学習をもっと浸透させていくことが必要だと確信しています。
改めてはっきりと言葉にします。話し方学習を義務教育にして、すべての人が学べる状態にしたい。
話し方を学ぶことは、スキルを学んでいるようですが、最終的に手に入れるのは、心の芯、マインドです。生きていれば、上手く前に進めなくてもどかしい時期がきっとある。話し方を学ぶことは、そんな人が能動的に、前向きに進む後押しになれると思います。そして学ぶ人自身が、自分が生きてきた唯一無二の人生にスポットライトを当てられる世界を実現したいです。
千葉:簡単ではないとわかっていますが、どんなに難しくても諦めません。
どんな夢でも、まずは描く。そして、誰よりも信じ続ける。
信じたすべての夢が叶うわけではないかもしれない。でも、言葉にすれば叶う確率は上がる。そんな思いで、これからも日々叶えたいことを言葉にし、言葉で、多くの人の人生が変わる瞬間をお手伝いしたいです。誰もが変われると信じて進む。それが、私らしさです。


千葉佳織
15歳から弁論を始め、全国弁論大会3度優勝、内閣総理大臣賞受賞。慶應義塾大学卒業後DeNAに入社。人事部所属時に同社初のスピーチライター業務を立ち上げ、登壇社員の育成、社長のスピーチ執筆など部署横断的に課題解決に取り組む。
2019年株式会社カエカを設立、話し方トレーニングサービス「kaeka」の運営を行い、経営者、政治家、社会人の話す力を数値化し、話し方を改善するサービスをこれまで7,000人以上に提供している。また、企業総会や国政選挙などでスピーチ原稿の執筆にも取り組む。2023年、東洋経済新報社「すごいベンチャー100」、Forbes JAPAN「次代を担う新星たち 2024年注目の日本発スタートアップ100選」に選出。著書に『話し方の戦略』。
執筆:紡もえ 撮影:梶礼哉