将来のビジョンを決めすぎず、「余白」を大事にする

画像1: 将来のビジョンを決めすぎず、「余白」を大事にする
――その後、絵本レーベル「yackyackbooks」を立ち上げられます。どんな経緯で始められたんでしょうか?

山中:ロンドンで絵本に興味を持ち、イラストや内容、絵本の紙質の魅力にどんどんハマっていきました。その過程で、「これって大人が見ても楽しめるんじゃないか」と思える絵本との出会いもたくさんあったんです。

それがきっかけで、「日本にそういう絵本を集めた本屋はあるのかな」と思って探してみましたが、僕がイメージするような本屋はなかった。それで、ないならば作ろうと。

――そこから、山中さんの絵本への想いが形になり始めるんですね。

山中:最初は「海外の絵本を紹介する絵本屋さん」という形で、東京の目黒に店舗を構えました。でも、コロナ禍を経て、海外の絵本を輸入するというのが価格的にも難しくなり……それなら「自分たちでオリジナルの絵本を作ろう」ということで、いまは絵本作りをしています。

――今日も絵本を何冊かお持ちいただきましたが、山中さんの絵本はとにかく表紙から可愛らしくて、飾っておきたくなるようなものばかりです。

山中:ありがとうございます。実は「飾りたくなる絵本」というのは僕の中のテーマです。

毎日同じ本を見ることって、あまりないじゃないですか。基本的には、閉じられている時間のほうが圧倒的に長いわけなので、だったら、絵や花を飾るように、本を飾ってもいいじゃないか、という考えがあります。

本の表紙って、だれもが最初に見る部分だし、僕自身「素敵な表紙だな」って思わないとその本はなかなか手にとらない。制作するときも、表紙を先にイメージして、「どんな物語なのかな?」って自分で想像して中身を作ることも多いです。

――創作のヒントは、どんなところから得ているのでしょうか?

山中: やはり逗子に移住したことで変化したと思います。引っ越して初めて迎えた朝、鳥の声で目覚めたんです。庭に桜の木が2本植わっていて、そこで鳴いていました。もう、うるさいくらいに(笑)

それまで都心に住んでいた頃はトラックの走る音を聞いていましたが、逗子に来てからは鳥の鳴き声をよく聞くようになって、「鳥」がすごく身近な存在になりました。

そのせいか、僕の絵本にはよく鳥が出てきます。僕の身近な世界の中にいるもの、あるもののほうが、題材になりやすいのかなと思います。

――絵本作りを始めたのも逗子に引っ越されてからですね。

山中:そうですね。ずっと東京にいたら、絵本を作っていたかどうかもわかりません。それよりも、ライブや美術館、イベントなどに時間を使ってしまいそうなので、今ほど絵本作りに時間を割けなかったんじゃないかと思います。

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――確かに、東京にいると“やれること”が多すぎるのかもしれません。

山中:子ども3人と妻がいて、家はうるさいぐらいに賑やかです。だけど、ふと「何もしなくていい時間」が生まれる瞬間があって、僕にとってはその生活の中の「余白」がとても貴重なものに思えるんです。

日々考えていることも、少しリラックスした状態でいると、違う考えがぱっと浮かんできたり、ずっと悩んでいたことが解決できたり。

余白って、絵本作りでも大事なんですよ。本人が言うのもなんですけど、僕は、自分がつくった絵本を眺めていても、言いたいことがよくわからないこともあります。「これ、何を書いているんだろう」って(笑)。でもその余白が、見る人によって違う捉え方になって、自分なりの解釈をしてもらえたらいいと思うんです。

――なるほど、時間も、絵本の中も「余白」。

山中:そうだと思います。いま思えば、僕の人生もそうだったのかもしれません。

若い頃は「こうなりたい」と夢みていても、経験を積むことで、たどり着けるものと、そうではないものがあるとわかる。ましてたどり着いたとしても、自分が思っていたのとは違う世界が広がっていたりする。

実際、ニューヨークに行ってみたら、よくも悪くも想像とは全然違いました。「映画の街・ニューヨーク」は、街のごく一部でしかなかったんだな、って。

――実際に目の当たりにしたからわかることですよね。

山中:そういう経験が積み重なったからこそ、あるときから「将来のビジョンをあまり決めすぎない」という思いが自分の中に芽生えたんだと思います。

小さなやりたいことはいっぱいあるけど、大きく「こうなろう」は決めない。それは、「どんな形になっても動けるように」っていう余白を持っておきたいから。だからこそ、誰かとのご縁をきっかけに、自分の好きな分野で世界を広げてこられたのかもしれません。

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