「自分には無理」と決めつけず、まずはやってみて

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――ご自身の記録を「すごくない」と断言した渡邊さんですが、その経験が多くの方に知られていることについてはどう思われますか?

渡邊:登山家として注目されるようになったことで、私が経験してきたことや、やりたいと思っていることにみんなが耳を傾けてくれるようになったことはよかったかな。参加者を募って普段会うことのできないヒマラヤのレジェンドシェルパたちと引き合わせたり、ベースキャンプで過ごしてもらって、登山以外の楽しみを伝える、という私にしかできないような企画をやっていますが、それも「渡邊直子と一緒だったら参加したい」と言ってくれる人たちが集まるから実現できていることです。さまざまなレコードによってネームバリューが作れたのだと感じています。

――登山の経験がなくとも、渡邊さんの姿を見て、励まされる人は大勢いると思います。そういった人たちに伝えたいことはありますか?

渡邊:いくつかありますが、まずは、さまざまな世界と関わってみて、「これは好き!」と言える自分だけの世界を持ってほしい。私は子どもの頃、学校ではいじめられたことがあって。でもNPO団体の冒険企画に参加したり、他にも英語で劇をしたり歌ったり、サマーキャンプにいく習い事やバドミントンや三味線なども習っていて、いくつもコミュニティがありました。だから学校でいじめられたとしても、潰れなかった。そんな風にいろんな居場所を持っておくことは大事だなと思います。

それから、はみ出すことを恐れなくていいということ。サバイバルキャンプに参加していた頃から、私の周りにはちょっと変わった人たちが大勢いました。だからなのか、はみ出していたっていいじゃん、と思って育ってきたんです。アジアの子どもたちと交流していたときも、文化の違いからハプニングが起こることもあったけど、それも含めて楽しんでいました。はみ出している人が叩かれてしまう風潮がまだまだありますよね、特に日本は。でも、それは決して悪いことじゃないと思ってほしい。

そして、興味のあることはとりあえずやってみてほしい。私は、「できなかったらどうしよう」とは考えずに、どんなことでも一度はチャレンジしてみることにしています。アンナプルナⅠ峰に登ったときも、登頂できるわけないと思っていました。無理だったら引き返せばいいやって軽い気持ちで。だから、偏見や固定観念は捨てて、もっと自由な気持ちでチャレンジしてもらいたいなと思います。たとえば、これを読んでいるあなた、「ヒマラヤ登山なんて自分には無理」って思っていませんか? でも「私にできたんだから、きっとあなたにもできる」。私はそう思います。実際、私と一緒に8,000m峰登頂を実現させた人もいますしね。

※ネパール中北部に位置する山。世界で10番目に高い山で、登頂の困難さと危険さで知られる

――最初から無理と決めつけずに、まずはやってみる。その素直なチャレンジ精神は大事にしたいです。

渡邊:どうしてこんなことを言うのかというと、私は看護師として、病棟で最期を迎える人をたくさん見てきたからです。志なかばでこの世を去る人たちを目の当たりにして、「いま、できることをやらないと、絶対に後悔する」と思って。だから私は、少しでも興味があることはすぐにやってみる。そう決めています。

――では今後、渡邊さんが「やりたいこと」を教えてください。
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渡邊:8,000m峰の登山回数を、誰にもまねできない大記録にしてみたいです。それとは別に、子どもたちや、精神的に疲れてしまった大人を連れて、ヒマラヤでのベースキャンプや登山以外の楽しみを体験してもらう活動をしていきたいです。

――渡邊さん自身が幼少期に登山を通して、さまざまな学びを得られたんですもんね。

渡邊:そうなんです。だからとくに子どもたちに同じような体験をしてほしい。子どもの頃に参加したサバイバルキャンプでは怒られた記憶がなくて、大人たちはただただ見守ってくれていました。もしかしたら失敗もするかもしれないけど、失敗した方が面白い。そうやって体験した強烈なエピソードって大人になっても忘れないじゃないですか。どの道を行くか迷ったって構わないですし、道具が足りなかったら知恵を絞ればいい。本当に困ったときは私が手を貸しますしね。そうやって自分で考え、生きる力を身につけていってほしいなと思います。

――今後も看護師は続けていくのですか?

渡邊:もちろん! せっかく取得した免許だし、これまで学んで身に着けたことを忘れたくないので。看護師をやりながら、登山をしていきます。

正直、看護師の仕事をしているとストレスはむちゃくちゃ溜まります(笑)。だからみなさんが週末にアーティストのライブに行ったり、マッサージに通ったりするように、私はヒマラヤに行きます。それがあるから仕事を頑張れる。山に登ることでリフレッシュできて、自分を保てる。8,000 m峰は私にとっての“日曜日”なんです。

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画像: もう一度チャレンジできるから、諦めるのも悪くない。登山家・渡邊直子さんの“乗り越えない”山登り

渡邊直子

登山家・看護師。3歳から親の付き添いなく冒険企画に参加する。小中学校でいじめに遭うも、別のコミュニティがあったことで潰れることはなかった。2024年10月、日本人女性として初めて8,000m峰14座制覇。K2に3度登頂と8,000m峰延べ30回登山は世界女性最多。現在も看護師を続けながら8,000m峰遠征に通い続ける。最近は講演にも力を入れ、登山初心者をヒマラヤに連れていく企画も好評。福岡県出身。

執筆:イガラシダイ 写真:梶 礼哉

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