チャレンジするたび、違うストーリーに出会える

▲ご本人提供
渡邊:いや、もう誰でもチャレンジができる時代になったということです。ヒマラヤに行くと、“キャピキャピ女子”がいっぱいいますよ。バッチリ化粧をして、つけまつげも付けて登頂するんです。本当に! 確かにそういう子たちに負けるもんかと頑張ったところはありますが(笑)、14座登頂だって、世界規模で見れば「ふつう」になってきているのに、ただ日本にはその情報が降りてきていないだけです。だから、私は「別に“日本人女性初”はすごいことではない」と言っています。
ただ、私は8,000m峰に30回も登っていて、大きな怪我も凍傷もなく無事に下山できている。ただの看護師が、しかも、自分で稼いだお金で、です。そんな人は他にいないので、そこは素直にすごいかもしれないと思っています。
※2 ヒマラヤ登山における案内人や荷物運びを担う人々のこと

▲ご本人提供
渡邊:そう。「これは無理かもしれない……」という気持ちと闘う。これまでにも途中でかなりきつくなって気持ちが折れそうになった瞬間はありました。
渡邊:それが、「乗り越える」みたいな感覚はないんです。私は30回ヒマラヤに行きましたが、そのうち10回は登頂できていません。気持ちというよりは、天候が荒れたり、ロープが足りなくなったりして、登頂を諦めました。でも私は、2カ月間の遠征をどう充実させるか、どう楽しむかに重きを置いているので、登頂ができなくても構わないと思っています。だから登頂できなくても「乗り越えられなかった」とは思わないし、無理して乗り越えようとはしません。無理そうなら諦めちゃいます。
それにそんなとき、心の中では「この山にもう一回チャレンジできるぞ!」と思っているので、他の登山家とは悔しがり方が違うのかもしれませんね。しかも、同じ山に挑むとしても、次は同行者もルートも変わる。エピソードもまったく違うものになるから、それが楽しい。

渡邊:そうそう! 次の機会ではまた違ったことを学べるんじゃないかと考えると、ワクワクするじゃないですか。だから無理はしない。私は自分のことをよく理解していると思います。強くもないし技術も十分ではない。それなのに過度に自信を持ってしまったら、判断を誤り、死んでしまうかもしれない。山ってそういうところですから。
私のことを応援してくれたこれまでのスポンサーも、私が楽しそうに登山する姿に共感してくださるところばかりでした。もしも「何がなんでも絶対に登頂してください」と要求してくるところだったら、私からお断りしていたと思います。それに、私には看護師という戻る場所がある。外部からの無茶振りには応えなくていいですし、主張もできる。そこが他の登山家とは違うところかもしれません。今後私を支えてくださるスポンサーのみなさまにも、同じように思っていただけるよう努力していきたいです。