子どもがいても、何ひとつあきらめない道を探す

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――2021年には、30歳でお子さんを出産。仕事と出産のタイミングについては、それまでどのように考えていましたか?

夏生:第一に「ほしいと思ってもかならず妊娠できるとは限らない」「奇跡に近いものだから、自分の都合で決められるものではない」という意識があったので、仕事を優先してなんとなく先送りにするのはやめようと思っていました。妊活を始めて、妊娠しづらい体質だということもわかり、実際に妊娠したのは、はじめての長編映画の脚本が大詰めの時期。臨月が近くなっても、大きなお腹と、痛む尾てい骨をさすりながら、毎日なんとか作業をしていました。

――その映画は、さえりさんの近年の代表作とも伺っています。ものすごく大変な時期のご妊娠……!

夏生:周りのメンバーはとても優しくて「しんどいときは休んでね」と言ってくれるんですが、私のほうが「休んでいる間に話が進んでいっちゃうのはいやだ!」という焦りと「楽しいからやりたい!」という気持ちがあって……本当にギリギリまで働いていましたね。でも、最終的には完成間近で出産を迎えてしまったので、残った作業をチームに託して産休に入ったんです。

そのころは、夫ともちょっとしたケンカがありました。夫が「仕事が忙しくて育休はすぐには取れない」なんて言うものだから「いや、本当は私も佳境なんだから!」って。

――産後はどのように復帰されたんですか?

夏生:産前産後の自分の気持ちの変化をじっくり見つめたいし、それを書き留めてもおきたいから、一年くらいはゆっくり休むつもりだったんです。でも、2か月くらいしたら働きたくなっちゃって……。

子どもと一緒にいて「先週も同じテレビ番組の同じコーナーを、同じ椅子に座って見ていたな」とかって気づくと、なぜかとても心細くなったりしていたんですよね。だから週に数時間の仕事から再開し、じわじわ量を増やしつつ、ゆるやかに復帰していきました。

――「すぐ働きたい」という意識の変化があったのは、どうしてだと思いますか?
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夏生:きっと、働くのが大好きなんでしょうね……。忙しく仕事をしている夫を見て「働いていてずるい」と思う瞬間が増えたのも理由のひとつです。夫をうらやましく感じるってことは、私が今の状況に満足していないってことだから「私は働かなきゃだめなタイプなんだ」って気づきました。

――もともとは、子育てと仕事をどんなふうに両立したいと考えていたんでしょうか。

夏生:母が専業主婦で、私は母が大好きだったので、同じように子どもと一緒にいる時間をとにかく大切にしたいと思っていました。だから産む前は「保育園にはあんまり急いで預けたくないなぁ」とか「フリーランスだから、家で子どもを見ながらゆるゆる働くのがいい」なんて理想を思い描いていたんです。でも、かつての理想といまの自分が欲するものは、どうやら違う。子どもとの時間を大切にしたい想いは何も変わらないけれど、「働きたい」と強く感じる自分もいたんです。だったら、どっちも絶対にあきらめない方法を探そう、と考えるようになりました。

――子育てと仕事の落としどころを探す作業がはじまったわけですね。

夏生:とはいっても自分一人ではどうにもならないので、まず夫やチームのメンバーに相談をしました。そうしたら、みんなとっても協力的だったんです。自分だけでシミュレートすると「無理だ」で終わってしまうんだけど、夫は「僕は子どもを見ながら近くで待機してるから、授乳したいときだけ仕事を抜けてきたら?」、チームは「この進め方ならこの作業をお願いできる?」なんて、いろんな提案をしてくれました。私だけでは思いつきもしなかった「仕事と子育てを両立するための新しいやり方」を、周りが一緒に考えてくれたんです。

――公私ともにすばらしいチームワークですね。子育てしながら働くようになって3年、とくに大変なことはありますか?

夏生:一番大変なのは、やりたいことが多すぎることです。育児も思いきりやりたいし、仕事もめちゃくちゃやりたいし、時間が足りません。でも、全部本当に心からやりたいことだから、好きなことにまみれた贅沢な日々でもある、というか……。そんな毎日をなんとか成立させるために日々突っ走っていたら、かなりマッチョになった気がします(笑)。仕事のスピードもこなせる量も、産前とは比べ物にならないくらいパワーアップしました。子どもの寝かしつけで一緒に眠らざるを得ないので、毎日9時間くらい睡眠が取れていて、毎朝エネルギー満タンになっているからかもしれません。今までよりも忙しくなったのに今までよりも健康になりました(笑)

もちろん、仕事が忙しくて子どもと過ごす時間が減ってしまうタイミングでは「もっと一緒にいられたらいいのに」と思ったりもするけど……そんなときは、短い時間でも濃縮して楽しむ。マックスの愛を伝える。それでなんとかバランスを取りながらやっていますね。

最近なんて、ずっとやってみたかったタップダンスまで習いはじめました。少しずつ日々の負荷を増やすことと「このマッチョな日々のなかに絶対ねじこんでやる!」という強い気持ちを持つことがポイントです(笑)

――「子どもを産むこと」が自分のやりたいことやキャリアとトレードオフになってしまった体験談も少なくないなかで、何一つあきらめない道を探し、邁進するさえりさんの存在が心強いです。
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夏生:これから子どもの成長やキャリアの変化によって悩む局面が出てくるかもしれないけれど、そのときはまた周りと相談しながら、新しい策をひねり出したいなと思っています。

それに、子育てと仕事を両立しようと頑張っている人たちは、きっとみんな仲間です。世の中全体をチームとして考えてみたら、いま私が悩んでいることを乗り越えてきた先輩がいるはずだし、私のいま考えていることが誰かの役に立つ場面も、きっとあるはず。お互いに情報を共有して、支え合いながらやっていけたらいいですよね。

――では最後に、これから挑戦していきたいことを教えてください。

夏生:ずっと、楽しいことをあきらめずに生きていきたいです。

とくに仕事って、自分の可能性と選択肢を広げてくれるもの。死ぬ直前まで楽しい仕事ができていたらうれしいし、あまり大きな目標を持たず、目の前の楽しそうなことにいつも挑戦し続けて、気づいたら遠くまできていた。そんなふうに進んでいきたいと思います。

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画像: キャリアも、育児も、自分らしく。夏生さえりさんの「何ひとつあきらめない方法」の探し方

夏生さえり

脚本、エッセイ、コピー、書籍など、「書く」を軸にさまざまなジャンルで活動している。2022年公開の映画「MONDAYS/このタイムループ上司に気づかせないと終わらない」では企画・脚本を担当。著書に「揺れる心の真ん中で」(幻冬舎単行本)他。

取材・執筆:菅原 さくら
編集:山口 真央
写真:梶 礼哉

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