メディアアーティストであり、研究者であり、全国各地の大学で教鞭をとり……枠にとらわれず活躍する落合陽一さん。2025年には大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「null²(ヌルヌル)」を手がけ、大きな話題を呼んだ。彼のものづくりのモチベーションは「誰も見たことのない不思議なアウトプットをつくること」だという。
そんな彼への9,000文字に迫るインタビューの前後編。前編の今回は、万博という大舞台でどのように「誰も見たことのない」ものを完成させていったか。また、その道のりで得たものについて聞く。

落合陽一
メディアアーティスト。1987年生まれ、2010年ごろより作家活動を始める。境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開。 筑波大学准教授、東京大学准教授、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)テーマ事業プロデューサー。 写真集「質量への憧憬(amana・2019)」NFT作品「Re-Digitalization of Waves(foundation・2021)」など。
万博のパビリオンは、思った以上に自転車操業

落合:はじまりは、2019年の有識者会議で「古墳万博をやりたい」と言ったことでした。前回の万博で岡本太郎氏が縄文時代をモチーフに「太陽の塔」をつくったのなら、次は古墳か弥生時代だろうという安直な発想です(笑)。古墳か弥生をテーマに据えるなら、共通するモチーフは「鏡」。要は、土器の時代から、鏡(銅鏡)の時代に変わったというモチーフをつくりたいと思ったんですね。僕はもともと鏡を使った作品をたくさんつくっていたので、これをやれるのは僕しかいないと考えました。結局古墳を掘るというプロジェクトはなくなって、モチーフである鏡だけが残ったんです。
2020年7月には正式にプロデューサーに就任しました。その年の秋に出した基本計画では「未だ見たことの無い有機的な風景を変換するモニュメント変形メタマテリアル構造や光学的メタマテリアル構造等によって構築された、人類が未だ見たことの無い有機的な風景の変換装置、風景とともにトランスフォーメーションする外観をもつモニュメント建築」……要するに「鏡で変形する建物で、中は人間の内観が変化するようなメディアアートをつくる」と書きました。モチーフとしては、2017~2018年に制作した「silverfloats」が直接的なリファレンスです。そこからチームを作って計画を立て、2021年2月ごろからさらに議論を重ねていきました。

落合:外観を覆っている「ミラー膜」は新素材で、開発に2年ほどかかっています。本来は建築法で使用が許可されている素材ではないのですが、半年間の万博が終われば撤去される“仮設”のパビリオンだからこそ、初の素材や工法を試せました。最初膜はバルーンでテストした後、太陽工業さんに専用膜の開発を頼みましたね。
ミラー膜の立方体にスピーカーやコンピューターを組み込み、彫刻的に建物をつくったら、次は中身です。映像や動き、振動、ロボット、さまざまなアクチュエータ、音響、照明などをつくりこみ、2025年2月からは現地に入って、LED機器のプログラムや内装演出、外装の動きなどをひたすら書いたり作ったりしていきました。大変だったのは、そのころもまだ予算が集まりきっていなかったこと。開幕間近になっても、まだお金を集めながらつくっているような感じでした。
落合:体験時間が短いので情報を圧縮して……と、けっこう難しくつくったから、一般向けはしないだろうと思っていたのですが、想像以上に老若男女みなさんが楽しんでくれた気がします。独特の世界観と難解さで、中に入った人たちから「悪魔の儀式」という感想が聞こえたりしてくるのが面白かったですね(笑)
