SNSの発達に伴い、「好きなこと」を活かして生きる人々が可視化されるようになった。いわゆるインフルエンサーと呼ばれる人だ。楽しそうに働く姿、キラキラした姿は、しばしば羨望の対象になる。
今回のミモザなひと、だいじろーさんはどうだろう。
子どもの頃から「言語」に強い関心を持ち、現在は英語系YouTuberとしてチャンネル登録者数80万人を超え、発音コーチとしても活躍している。しかし、彼は「自分にとって英語は“好きなこと”とはちょっと違うんです」と話してくれた。
働くこと、そして生きることにおいて、だいじろーさんが自分らしくあるために大切にしている考え方とは、どんなことだろう――。
出身地が異なる両親の、日本語の発音が違う。そんな気づきに夢中になった幼少期

だいじろー:振り返ってみると、たしかにそうだったかもしれません。ぼくの父は秋田県出身、母は佐賀県出身でして、そんなふたりを見て、「どうして日本語の発音の仕方が違うんだろう」と不思議に思っていました。たとえば、「が」と発音するとき、母はふつうに発音するのに、父は「んが」と鼻濁音になる。その違いが気になって仕方ありませんでした。
学校でもクラスメイトや先生の発音をよく聞いてみると、一人ひとり異なる。先生に「を」の発音は「うぉ」だと習ったので、真面目に「うぉ」と発音するようにしていたのに、先生自身は普通に「お」と発音していて……それに対して誰も指摘しないし、自分で教えながらどうしてそこにこだわらないんだろう、と思っていました。
だいじろー:きっかけは、中学2年生の頃のホームステイです。オーストラリアに2週間ほど滞在しましたが、日本との文化の違いに衝撃を受けました。向こうの学生は裸足で歩いていたり、ランチにリンゴだけを持ってきて丸かじりしていたりする。教室の机は整列しておらずぐちゃぐちゃに並べられているし、多少うるさくても積極的に発言することが評価される。それまで「当たり前」だと思っていたことが、国が違えば変わってしまうのが面白くて。それから、いつかオーストラリアに住んでみたいと思うようになって、英語を懸命に勉強するようになりました。
だいじろー:発音の多様性がグローバルスケールなところですね。日本語にも地方によってさまざまな方言がありますけど、英語の場合、それがひとつの国だけに留まりません。アメリカ、カナダ、オーストラリア、インド、シンガポール……、世界中の人々が英語で喋っていて、それぞれに発音が違ったり、多様な方言があったりするんですよ。

だいじろー:そうですね。もともと英語はイギリスの言葉だから、イギリス人は、アメリカ英語を「正しくない英語」だなんて冗談交じりでいじったりする。ただ、アメリカが世界の大国になったことで、世界中の英語がアメリカ英語の影響を受けるようになりました。テレビで流れるのはアメリカ英語ばかりですしね。イギリス人からすれば「自分たちの言語なのに……」と複雑なわけですが、どうしたって経済力の強い地域の言語がスタンダードになってしまう。
あるいはイギリス国内でも英語の違いがあります。特に昔のイギリスは階級社会で、上流階級の人、中流階級の人、労働者階級の人とで、英語の発音が異なる。喋ればある程度階級がわかってしまいます。
日本人からすれば信じられないようなことばかりですよね。勉強すればするほど、言語を通じて「文化」が見えてきて興味深いな、と思います。