視覚障害を持つ人の外出を支える白杖や盲導犬。これらは視覚障害者の“安全面”を確保するものですが、“もう一歩先”へ進みたくなるデバイスとして今注目されているのが、歩行ナビゲーションシステム『あしらせ』です。

「一人で歩くことをサポートするだけでなく、視覚障害者が諦めやすいキャリアや生き方をサポートするデバイスにしたい」

そう語るのは、『あしらせ』を開発する株式会社Ashiraseで、カスタマーサクセスを主な業務とする西川隆之(にしかわ たかゆき)さん。会社内で唯一の視覚障害のある当事者であり、開発チームとの架け橋として活躍しています。

※ユーザーに能動的に関わり、製品を最大限に活用して成功体験を得てもらうことを支援する取り組み

『あしらせ』への思いは、どんな歩みの中で育まれ、どんな新しい道を作っていくのでしょうか。今回は代表の千野歩(ちのわたる)さんにもお越しいただき、『あしらせ』で実現したい社会と、ユーザーに届けたいメッセージを伺います。


“ 弱視だからみえること”が、誰かの力になるなら

画像: ▲(左)カスタマーサクセス担当・西川隆之さん (右)代表・千野歩さん

▲(左)カスタマーサクセス担当・西川隆之さん (右)代表・千野歩さん

――代表の千野さんはどのような経緯で『あしらせ』の開発を始めたのですか?

千野:きっかけは、私の親族の事故でした。高齢で目が不自由だった妻の祖母が、誤って川に落ち、亡くなってしまったんです。

当時大手のクルマメーカーで働いていた私は「乗り物は安全重視でたくさんのテクノロジーが導入されているけれど、歩行には何も導入されていない」と気づいて。有志の仲間と歩行ナビゲーションの開発を進め、社内の新規事業創出プログラムを経て、2021年にAshiraseを設立しました。

―― ご親族の事故がきっかけだったのですね……。視覚障害の当事者である西川さんが参画されるまで、Ashiraseには当事者の方はいなかったと伺いました。

西川:僕は2024年に参画しました。それまでは、15年ほど大手通信会社の情報システム部門で働いた後、外資系IT企業で1年半ほどアクセシビリティに関わる仕事をしていました。障害のある方やご高齢の方、どんな方でも製品やサービスを不自由なく使えるにはどうしたらいいかを考える仕事です。

僕は視覚障害の中で「弱視」に位置します。弱視といっても見え方は人それぞれですが、僕の場合は、明るいところではトイレットペーパーの芯を通してものが見えるような感じで、視力は0.1くらい。薄暗くなってくると何も見えず、全盲状態になります。進行性の網膜疾患のため視野がどんどん狭くなり、視力も次第に弱まって失明する病気です。

僕自身、当事者の苦しみを感じながら生きてきましたし、同じ病気を持つ方やそのご家族の話も聞いてきました。Ashiraseへの参画を決めたのは、自分の経験を活かせれば、当事者の皆さんが自分らしく生きるきっかけになれるかもしれないと思ったから。

また、以前から『あしらせ』に期待を寄せていたことも大きかったです。

―― 『あしらせ』を初めて知ったとき、西川さんはどんなところに期待を持ちましたか?

西川:まずひとつは「企業がビジネスとして扱ってくれていること」。ビジネスとして考えると、対象者が視覚障害の当事者だけというのはあまりにもニッチで難しい市場だと思います。だからこそ、当事者の僕らとしては企業が向き合ってくれること自体が本当にありがたい。これをきっかけに、他の企業にも広がっていく期待感を持ちました。

画像: ▲西川さんのスニーカーに取り付けられている『あしらせ』

▲西川さんのスニーカーに取り付けられている『あしらせ』

西川:そして『あしらせ』を実際に使ってみて、さらに期待が高まりましたね。デバイスを靴に装着し、専用のスマートフォンアプリに目的地を入れると、足への振動で進む方向を教えてくれる仕組みです。白杖や盲導犬から受け取る情報は邪魔せず、足元から追加で必要な情報が得られる。

例えば目的地にたどり着けても、ドアの場所がわからないことってよくあるんですよ。それを『あしらせ』は、「左方面、右開きです」のように音声で教えてくれる。「これがあればひとりでできることが増える」という期待は大きかったです。

―― 西川さんが実際に『あしらせ』を使って、行けてうれしかった場所はありますか?

西川:行きたかったラーメン屋……ですかね。『あしらせ』にはAIおすすめ機能というものがあって、「近くのラーメン屋」と声で伝えると現在地近くのおすすめのお店を教えてくれるんです。
口コミサイトの情報を要約して「ここは醤油系がおいしいそうです」「一部のお客さまにスープが不人気です」という情報まで(笑)

これってとても身近な話ですけど、全然当たり前ではなくて。目から入る情報が全体の8割と言われる中で、それが得られない視覚障害は「情報障害」とも言われます。10年住んでいる土地でもどんな店があるのか知らないなんてことがよくあるし、行ったことがないところに行くハードルがとても高い。だから情報を補ってくれるデバイスは当事者の皆さんにとっても助かるだろうと思いながら、開発に携わっています。

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