おろそかになっていい。全部やってみるのが大正解

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――周囲の期待を感じて自分の好きなことを選べない、そんな状況に直面してきた人は多いのではないかと思います。

東儀:周囲の期待が自信になればいいけれど、枷(かせ)になってしまう場合もあるでしょうね。「親が医者だから立派な医者になれよ」「音楽家の家に生まれたから君もきっとなるだろう」とか。ちっちが生まれた時も、周囲からは「跡継ぎができてよかったですね」と声をかけられることが多かったです。

でも、生まれてから毎日ちっちを見てきて思ったんです。子どもは純粋だから、何になりたいかを考える以前に、何にでも反応するでしょ。星を見てはワクワクして、「恐竜だ!」「カブトムシだ!」と、惹かれるものをどんどん追求していく。それを取り上げちゃいけない。約100年という短い一生で「カブトムシの研究がしたいけど、音楽家になるから音楽をやらなきゃ」とか思わせるのは、僕はかわいそうだと思います。カブトムシが好き、恐竜も好き、でも音楽も好き……だったら全部同時にやっちゃえばいいじゃない。

――全部同時に、ですか?

東儀:A・B・Cのパターンがあるとして、どれにするかはっきり決めなさいと学校では教わるかもしれない。二兎を追う者は一兎をも得ずと。でもね、やりたいなら全部同時にやることを考えたほうがいい。例えばAを選んで、頑張ってAになれたとする。それで順風満帆なときはいいけれど、上手くいかなくなったとき「あの時BやCを選んでいたらどうなっただろう」と後悔するかもしれないでしょ。

――いろいろなことを同時にやると、どれかがおろそかになりそうで不安になりませんか?

東儀:おろそかを経験したほうがいいよ。人間は器用じゃないから、どれかはおろそかになる。僕は器用だけどね(笑)。それは置いておいて。おろそかになったものが淘汰されて、残ったものが自分に向いているということ。「BもCも知っているけれど、自分はAを選んだ」と思えたら人生に迷いがなくなる。だから「同時にやるのが大正解」って僕はいつも言っています。

それと、「自分はこれに向いている」というのは一生ひとつに決めない方がいいです。「自分はこれだ」と決めると、「寄り道せずに目的地に向かうぞ」という思考になる。でも必ずしも想像しているとおりに進むわけではないし、道中に出会う他のものが自分に向いているかもしれないでしょ。その寄り道がおもしろい。

だから僕は、何かをしている間も、誘いがあれば「いや待てよ、そっちも面白そうだな」と気軽に試します。あっちこっちジグザグに進んで、その振れ幅が大きいほど、自分が広がっていく。水が自然に流れるみたいに、行先を決めずに行きたいところに進んで生きるのは楽しいですよ。

――楽しそうな東儀さんに、「全部やってもいいんだよ」と背中を押されたような気がします。

東儀:そうですよ。人生はまだまだ続くし、僕も今は雅楽師で音楽家の肩書がついているけれど、これから何をやって何が残るかわからないですよ。器用だから、陶芸をやって作品がヒットするかもしれない。そしたら「もう音楽なんてやってられねえや」と夢中になって……のちに「陶芸家・東儀秀樹。音楽もやっていた」みたいに音楽が後付けになる可能性だってある。スポーツ万能だから、何かの種目で脚光を浴びるかもしれないしね。

――ふふっ(笑)
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東儀:あっ、今「まさか」と思って笑ったね。後で見てろよ(笑)

得意なことに自信を持つことは素敵だし、僕も今音楽に対してそうだけど、また違った自分に出会えるかもしれないワクワクが、僕の生きる原動力。それに次へ次へとワクワクしていたら、今の苦難が怖くなくなるんですよ。僕はがんや交通事故で何度も命の危機に晒されているけれど、その時も怖さは感じなかった。極端な例だけどね。

――命の危機も怖くなかった……?

東儀:ある時は公演前日に、追突事故にあってもう駄目かもしれないという状態になってね。でも僕は意識があったし、口と指は動いた。「東儀秀樹が事故に遭った」と知っているみんなは、公演は絶対キャンセルだと思うでしょう。ここで、公演をやるんですよ。「東儀さん、本当にやるんですか」と驚くスタッフやお客さんの顔が早く見たいと、ワクワクしてね。追突してきた相手を怒鳴ったところで時間は巻き戻らないじゃない。だから、苦しいけれど、自分が楽しくいられるところに最短で目を向ける。

生きていたら、嫌なことはたくさんあります。でも大抵の場合は、数年経つと誰かに「ちょっと聞いてよ、あの時もう最悪だった」と楽しそうに笑顔で話しているよね。時間が経てば、もう駄目だと思ったことが笑い話になるとわかっているなら、待たない方がいい。嫌なことが起こった瞬間にワクワクに切り替えちゃう。ワクワクがその瞬間の恐怖や苦悩を忘れさせてくれるしね。これは僕の一番強いところだと思います。

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