誰もが「ちがう」想いや悩みを持って⽣きています。でも、もしかしたら誰かが導き出した答えが、あなたの答えにもなるかもしれません。「根ほり花ほり10アンケート」では、さまざまな業界で活躍する“あの人”に、10の質問を投げかけます。
今回は、作家・演出家の鴻上尚史さんが登場。きっと、「みんなちがって、みんなおんなじ」。たくさんの花のタネを、あなたの心にも蒔いてみてくださいね。
鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)
作家・演出家。1981年に劇団「第三舞台」を結成し、以降、作・演出を多数手がける。これまで紀伊國屋演劇賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞など受賞。舞台公演の他には、エッセイスト、小説家、ラジオ・パーソナリティ、映画監督など幅広く活動。AERA.dotにて「鴻上尚史のほがらか人生相談〜息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋」を連載中。近著に「君はどう生きるか」(講談社)、「生きのびるヒント」(論創社)、戯曲本「朝日のような夕日をつれて 2024」(論創社)など多数。桐朋学園芸術短期大学名誉教授。昭和音楽大学客員教授。
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①今の仕事に就いた経緯は?仕事のやりがいや楽しみは?
中学、高校と演劇部で、大学の演劇サークルに入って、その中で「第三舞台」という劇団を旗揚げしました。最初のお客さんは約300人でしたが、毎回お客さんが増え続け、3年後には、紀伊國屋ホールで上演が決まりました。5年ほどでお客さんの数が1万人を超え、気がついたら、プロになっていました。やりがいというか喜びは、自分自身が面白いと思う作品を創り、同時にお客さんも喜んでくれたと感じた時です。
②これまでの自分の人生にキャッチコピーをつけるなら?
「面白いことだけを追いかけてきた」ですかね。
③今までに人生の分かれ道に立ったとき、どう考えてどう決断してきた?
いつも、「先が見えない」方を選ぶようにしてきました。大学に入って、劇団を旗揚げした時もその当時は、学生劇団からプロになった集団はひとつもありませんでした。「先が見える」と面白くないと感じたのです。「先が見えない」不安より、「先が見えない」からこそ感じるワクワク感を支えに生きてきました。
④休日明けの朝、仕事に行きたくないと感じることが多いです。そんなときどうしますか?
僕は、「どんなやっかいな仕事でも、なにかしらの楽しみを見つけよう」というのをモットーにしています。仕事がしんどすぎる場合は、「お昼にうなぎを食べよう」なんてレベルの楽しみを見つけます。まったく楽しみがない、真剣に行きたくないと思う仕事なら、辞めた方が精神衛生上、いいと思いますね。
⑤仕事において、やりたいことや目標がみつかりません。そんな自分はダメでしょうか?
抽象的な相談ですねえ。だって、「やりたいこと」とか「目標」は、ケースバイケースで、いろんなレベルがあるでしょう。仕事そのものが、なんの意味もない「ブルシット・ジョブ」の場合もあります。そもそも、ルーティーンだけをやって、進歩する必要がない仕事もありますから、どんなレベルの仕事を任せられているかによりますね。実際に、「改善の余地がない」「創意工夫の可能性がない」「自分にできる小さな仕事さえない」なんてケースだと、「やりたいこと」「目標」を見つけるのは難しいでしょう。あなたは、どのレベルの仕事をしていますか?
⑥将来に対して漠然とした不安を感じてしまいます。どんなマインドを持てばいいので しょうか?
生きていて不安を感じない人なんているんでしょうか。不安で当たり前。で、僕が質問3で答えたように、「先が見えないことを不安に感じないで、先が見えないことを楽しもう」ということですね。だって、先が完全に見えたら、不安はなくなるけど、同時に面白くなくなると思うのですよ。結末の分かったドラマほど、つまらないものはないと思うんですよ。
⑦時間とお金の使い方のこだわりを教えてください
時間はとても大事なものです。中途半端に仕事の間が1時間とかあいたりすると、とてももったいなく感じます。その1時間でなにができるかを考えます。取材とか打ち合わせとかミーティングとか、それぞれの間が30分あくだけで、もったいないです。お金は、うまくためるのではなく、うまく使おうと思っています。お金に振り回されたり、お金のために仕事をするのは、なんだかつまんないと思っています。
⑧過去の自分にメッセージを送るなら?
今はなんの後悔もないですから、まあ、「なんとか、やってるよ」と伝えるだけです。その時、その時、一生懸命考えて、先の見えない方を選んできたので、もちろん、失敗もあるし、後悔することもあります。
でもまあ、それは、「先が見えない」方向を楽しもうと思ったのですから、しょうがないことですね。ですから、「なんとか、やってるよ」です。
⑨将来どんな暮らし、生き方がしたい?
将来といっても、もう60代ですからね。可能な限り、人生の最後まで、作品を創り続けていたいですね。稽古中とか執筆中に自分になにかあるとみんなに迷惑をかけてしまうので、ひとつの仕事が終わって、みんながホッとした時にぽっくりいけるといいと思います。つまりは、ずっと自分が面白いと思える作品を創り続けてたいです。穏やかな老後とか引退生活なんて、まったく考えていません。
⑩鴻上尚史さんにとって、「自分らしく働く」とは?
とにかく、自分がまず納得できて、自分が面白いと思うことをやることですね。お客さんが喜ぶことは大事なんですが、そもそも、自分が納得し、面白いと思えないと、周りの評価がどんなに高くても意味がない、「自分らしく働けてない」ということですね。自分が納得すれば、どんな仕事でも楽しく、やりがいを持って働けますね。それが「自分らしく働く」ということですね。
「不安は感じて当たり前。『先の見えなさ』をワクワク感にして、人生を面白くしよう」という鴻上さんの生き方をありありと感じました。私はよく小説を読みますが、たしかに展開の読めないワクワク感が面白さに直結しています。今後、何か選択する場面では、自分を物語の登場人物にしたつもりになって「どうすればこの先の展開が面白くなるか?」を考えると楽しいのでは、とさっそくワクワクしました。そしてその選択を続けていくことで不安は薄まり、自分の決断への納得感も出てくるのではないかと思います。そんな気持ちにさせてくださった鴻上さん、ありがとうございました!