心が折れそうになるときもある。けれど、社会はこんな変化を見せてきた

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――宋さんが臨床と情報発信の二足のわらじを履くようになって、14年。社会が変わってきた手ごたえはありますか?

宋:ありますね。Xで話題になっている産科・婦人科系のトピックに引用コメントをつけると、すぐに新聞社やテレビの方から連絡が来て、メディアに展開される事例も増えました。これは社会の関心が、昔よりも格段に高まっている証です。最近では、ソーシャルセクターやNPOなどと連携して、医師の立場から世論形成や政策提言に携わり、政治や行政をインフルエンスする役割も増えています。

ただ、さまざまな仕組みが整うまでにはまだ時間がかかりますね。たとえば「新型コロナウイルスのワクチンは、重症化リスクのある妊婦さんにこそ打ってほしい」「赤ちゃんが重症化しやすいRSウイルスのワクチンが接種できるようになりました」などと情報発信しても、実際に打てる病院の数が少なかったりするんです。私のクリニックにそういったワクチン接種でいらっしゃる方の中には「近くに打てる病院がなくて」と、わざわざ遠くから丸の内に足を運んでくださる方もいます。つまり、情報が届く範囲の人にしか医療を提供できないことは多々あるんだけど……それでも「声の大きな産婦人科医」として自分がなすべきことや成果を感じられる場面は出てきています。

――そうした活動をされてきて、壁にぶつかったり、心が折れそうになったりしたことはあるのでしょうか。

宋:「海外なら安く買える経口中絶薬を、日本の産婦人科は高く売っている」「女性の痛みを軽視しているから施術に麻酔を使わないんだ」などの誤解を生む情報が広まったり、私個人の好き嫌いだけで情報発信していると決めつけられたりしたときには「そうじゃないのに」と落ち込みますね。そういうときは黙っているとそれが常識としてとらえられてしまうため、「経口中絶薬は原価がいくらで、適切な管理にいくらかかります」「麻酔を使えない理由はこうです」などと根拠を添えて、丁寧に反論します。

ただ、私がメディアに出はじめたばかりの昔に比べると、実名で発信している産婦人科医は増えました。みんなうまく連携できていて心強いし、必要な情報を広く届けやすくなったと感じています。

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――時代や環境が変わっていくなかで、そもそも「産婦人科医」という仕事の存在意義について、宋さんはどのようにお考えですか?

宋:産婦人科医とは、女性が自分の健康を管理し、よりよい選択をしていくために役立つ情報のプロバイダーだと思っています。私たちの仕事はさまざまな手段で女性の身体にまつわる苦しみをやわらげ、未来のリスクを減らして、長期的な健康に寄与すること。だからこそ、不必要に私たち医師や医療を女性から遠ざける言説が出たときはちゃんと否定し、その存在意義を発信しなければいけないと考えています。

そんな役割を発信するとき、私は私の「自分らしさ」が役に立つなと思うことがあるんですよね。私、なんだか小さいころから妙に、集団のなかで目立ってしまうんです(笑)。もちろん芸能界などには「目立つこと」にもっと特化した方がたくさんいますが、医療業界においては、かなり注目を集めるほうかなと。でも、その特徴って、情報を発信したり誰かに影響を与えたりするには、案外役に立ったりもするんです。いままで特別な戦略を持って活動してきたわけではありませんが、これからも自然体のまま、必要な人に必要な情報を届けていけたらと思います。

――宋さんが自分らしく仕事をされていくなかで、その活動に救われる人がきっとたくさん増えていくと思います。

宋:女性の身体に生まれたことで発生するさまざまなリスクをできるかぎりコントロールして、自分の人生を自由に選択できる人が、もっと増えたらいいですよね。

単純に「大事な予定と生理が重なったらつらいな」と思う人は、まずクリニックにかかってみてほしいです。正常な生理は、パフォーマンスにほとんど影響しません。でも、あるアンケートでは、半分以上の女性が「生理のときはパフォーマンスが半分以下になる」と答えています。それって、毎月お財布からお金を抜き取られているのと同じくらい、シンプルに損をしちゃってますよ!

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画像: 産婦人科医・宋美玄の挑戦。「臨床と情報発信を続けてきた14年で、社会はどう変わった?」

宋 美玄

産婦人科医・医学博士。1976年兵庫県神戸市生まれ。外科医だった父の影響を受け、2001年大阪大学医学部医学科卒業。大学卒業後、大阪大学医学部附属病院、りんくう総合医療センターなどを経て川崎医科大学講師就任。2017年丸の内の森レディースクリニックを開業。現在は2児の母。

執筆:菅原さくら
撮影:宮崎 隼

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