日本のホームレス人口は2,820名。そのうちの856人が、大阪府の路上で暮らしている。路上生活をする人以外にもネットカフェなどを転々とする生活を余儀なくされている「見えないホームレス」が増えており、年齢層や性別なども多様になってきているという。なぜ、彼らは家を失ってしまったのだろう。

「最初はホームレスのおっちゃんたちに対して、『頑張っていれば、ホームレスにはならなかったんじゃないか』と思っていたんです」

そう語るのは今回のミモザなひと、川口加奈さん。認定NPO法人Homedoorの代表である川口さんは、14歳のときに大阪・あいりん地区で初めて炊き出しに参加した日から今まで、19年にわたりホームレス支援の活動を続けてきた。

一体どんな経験が、彼女のまなざしを変えたのだろうか。川口さんの言葉で、明日から街の見え方がすこし変わるかもしれない。

※令和6年厚労省調べ


「どうしてホームレスになるんだろう」。地図に載らない街で知ったこと

画像1: 「どうしてホームレスになるんだろう」。地図に載らない街で知ったこと
――14歳で初めて炊きだしに参加して以来、ずっとホームレス問題と向き合ってきた川口さん。初めて「おっちゃんたち」と出会う日までは、どんな子ども時代を過ごしていましたか?

川口:戦争文学に興味があって、『はだしのゲン』など学校に置いてある本を夢中で読んでいましたね。「私は戦争のない時代の日本で平和に生きているけれど、生まれた場所や時代が違ったら、同じ状況に置かれて苦しんでいたかもしれない」と思いながら。当時はイラク戦争の最中でもあり、自分はたまたま平和な環境で生を受けたからこそできることをしたいという気持ちで、国際協力にも興味を持っていました。

――今は日本国内の課題に取り組まれていますが、最初は海外に目を向けていたのですね。

川口:自分の身近で起こっている問題に、その頃はまだ気づいていませんでした。でもある日、学校から帰る電車の外を見ていて気になったことがあって。新今宮駅の付近で、ホームレスのおっちゃんたちが行列を作っていたんです。第一印象はただただ不思議でした。日本って豊かな国のはずなのに、何であんなにたくさんホームレスの人たちがいるんだろう。どうしてホームレスになるんだろう。

帰宅後に疑問を母にぶつけてみると、「あそこは危ないから行ったらあかん!」と。理由もはぐらかされてしまった。まあ大人としては心配ですよね。母の言ったことも、今ならわかる。でも、私ははぐらかされると気になってしまうタイプで、自分で調べてみることにしたんです。ネットで検索してまず目に飛び込んできたのは、「地図に載っていない街」という言葉でした。

画像2: 「どうしてホームレスになるんだろう」。地図に載らない街で知ったこと
――地図に載っていない街。

川口:衝撃的な言葉ですよね。調べてみたら、新今宮駅の南側の「あいりん地区」は、建設業の労働者を中心に日雇いの仕事を求める人が集まる街でした。バブル崩壊後に仕事が激減し、不安定な日雇いで生計を立てていた人たちは路上生活を余儀なくされていたんですね。

そしてさらに調べていくと、どうやら地元の支援団体が定期的に炊き出しをしていて、ボランティアを募集していることがわかった。まだどんなところかイメージがついていなかった私は、「行ってみたら何かわかるはず」とひとりで参加してみることにしました。

――「行ったらあかん」と言われた場所への訪問、怖くはなかったですか?

川口:最初は恐る恐るでしたね。廃墟のような建物が多いし、雰囲気も暗くて……しかも道に迷ってしまったんですよ。もちろん周りに同年代の子はいなかったし、すごく心細かった。でも、道端に座っていたおっちゃんが声をかけてくれて、会場まで連れて行ってくれました。私を送り届けると「がんばりや」と軽快に去っていくおっちゃん。最初は怖かったけれど、思ったより優しくて人情味があるんやなと思いました。

それまでの私は、内心「ホームレスになったのはその人のせいなのでは」という思いがありました。でも、他のボランティアの人たちとおにぎりを作って、手渡す瞬間が近づくにつれ、こんな気持ちを持ちながら渡すのはよくないと感じてきたんです。ボランティアの中には元ホームレスの人もいたから、意を決して聞いてみました。「何でホームレスになったんですか?ちゃんと勉強していたら、頑張っていたらならなかったんじゃないですか?」って。

とんでもない質問を受けたにもかかわらずその方は、優しく教えてくれました。勉強机がない家で、勉強する時間があるなら働けと怒られながら育ったこと。進学できずに日雇い労働を続けたけど、歳を重ねたら雇ってもらえなくなり、新しい仕事を見つけることも難しかったこと。私自身はそんな環境を知らずに育った。「私は頑張るか、頑張らないか選べる場所にいただけやったんや……」。そんなショックと無力さを感じながらおにぎりを手渡して、受け取ってくれるおっちゃんたちそれぞれの表情をみていました。

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