ひとりになってもやり抜く覚悟で。2つの社会問題をつないだシェアサイクル
川口:認定NPO法人Homedoorを設立したのは19歳のとき。でも私は大学在学中に起業するつもりはなかったです。就職して働きながら夢の間取り図の実現方法を探して、30歳くらいで起業できたらな、と。けれどボランティア・スピリット・アワードで出会ったKくんから「やれることは今からやったほうがいいよ」と言われ、Kくんが連れてきたもうひとりのメンバーと、3人で一緒に活動を始めました。
夜中に缶集めを終えたホームレスの人に朝ごはんを提供できる喫茶の運営から始まり、就労支援のためのシェアサイクル事業「HUBchari(ハブチャリ)」の実証実験をして……と活動を広げていく中で、残念ながら2人とも就職や新しい道への挑戦からHomedoorを辞めてしまいまして。
川口:ひとりになって、それでも続けるのか心底悩みました。「2人がいなくなったせいだ」とか、誰かのせいにしたくなる自分もいました。でも、私は続ける道を選ぼうと。包み隠さず言うと、HUBchariの実証実験で協力してもらった人たちへの申し訳ない気持ちや、ホームレスのおっちゃんたちからの期待を考えると、辞めるより続ける方が楽だと思ったのが正直なところです。今更「辞めます」と伝えて回るには大きすぎる規模にもなり始めていました。でもこの出来事があって、「ひとりになってもやり抜く覚悟」があるから仲間は集まってくるし、揺らいじゃいけないなと腹をくくることができたんです。
覚悟を決めるまでの間は大変だったけど、実証実験がメディアに取り上げられたり、シェアサイクルに興味を持ってくださる企業さまからお声がけをいただいたりと、活動を支えてくださるつながりがだんだんとできてきました。
川口:ホームレスの人の得意を活かせる仕事を考えていたときに、とあるおっちゃんが「俺、自転車修理できるで」と教えてくれたのがきっかけです。ホームレスのおっちゃんたちは缶集めの時などに自転車を使うことが多い。そんな背景も考えると、当時身近にいたホームレスの人の7割近くが自転車修理技術を持っているとわかったんです。シェアサイクルなら、頻繁にバッテリー交換やパンク修理等で即戦力として活躍してもらえる事業ではないかと考えました。
こだわったのは、ホームレス支援に関心がある人だけではなく、一般の人にたくさん使ってもらえること。一般の人のニーズに合わせれば、「自分が使いたいから使っていたら、いつのまにか支援に繋がっていた」という状況が生まれて自然に事業が回って、ホームレス問題を知るきっかけにもなると思ったんです。加えて、普段支援される対象のホームレスの皆さんが、大阪で深刻な放置自転車問題の解決を支援する担い手になれることもポイントになりました。
川口:そうですね。働き始めて生き生きとした表情を取り戻した方や、HUBchariで稼いだお金で就職活動の体制を整えて新しい仕事を見つけたり、家を借りたり……そういったステップに進まれた方々を見ていると、よかったなと思います。最初はシェアサイクル自体の認知度も高くなくて、拠点を多く確保しないと運営が難しいビジネスモデルだったので苦労しましたが、協力してくださっている企業さま、個人のパートナーさまには感謝しています。