「舞台は特別な人が立つ場所」その考えを変えた授業
曽根:演劇はほとんど接点がありませんでした。でもクラシックバレエをやっていたので、舞台への関心はあった。踊ることが楽しかったし、舞台に出る前の緊張感も、衣装やメイクの非日常感も好きでした。
でも小学校高学年のときに、バレリーナを目指すか決断を迫られて……私はやめる決断をしました。費用が家庭の負担になるだろうとか、身体的な理想に自分が当てはまっていないとか、いろいろ理由はありました。決定的だったのは、バレエを続ける方法を必死に探そうとしていない自分に気付いたこと。
その程度の気持ちしかなかったという事実を突きつけられた。それから「私には舞台に縁がなかった」という気持ちがずっと心にあったんです。
曽根:大学1年生の時に受けた演劇の授業です。面白そうな授業があると聞いて覗いたら、教室の真ん中に人が寝転んで雑誌を読んでいて。「何だこれは?!」と。劇作家・演出家の平田オリザさんが講師をされていた演劇の授業の一環だったのですが、とにかく異様な光景が広がっていました。それが演劇との出会いです。
私はそれまで演劇って、大きな劇場でスター俳優を見るための場だと思っていました。バレエと同じで、特別な人しか舞台に上がれない。でもその演劇の授業は誰にでも開かれていて、誰もが演じることを考え試そうとしていました。自分の固定観念に風穴を空けられた気持ちで、小劇場演劇を中心に観劇にのめり込むようになったんです。
曽根:いえ、演劇は好きでしたが、どんな仕事があるのかも知らなかったし、知識がない状態でフリーランスとして関わるイメージもできなかった。当時は人材に関心があったので、大学卒業後はリクルートに入社しました。
実は大学生のとき、「人はなんで働かなくちゃいけないんだろう」ってずっと思っていて……(笑)。卒業研究では、就職支援センターに通う無職の若者を対象にインタビューをして、働くという概念を探求してみたんです。この問いをもうちょっと考えてみたくなったというか。
曽根:それが、探求をおもしろがるどころではないくらい追い込まれてしまいました。同期のほとんどが営業職になる中、私は希望していた研究開発職に配属され、大見えを切って入社したものの、1年半ほどまったく成果を出せなくて……。「良い人材」を定義するような仕事で、責任が大きくやりがいもあると思ったのですが、だんだん自分が何を作っているのかわからなくなり落ち込んでしまったんです。
でも、ある仕事がきっかけで這い上がることができました。詳しくはお話できないのですが、全国の学校の先生にインタビューをして進めるプロジェクトで。社会人になって初めて「自分で進めている実感がある!おもしろい!」と手応えを得られたんです。多くの人と話して多様な捉え方に触れて、自分の中でリフレクションがあって…作ろうとしているものの手触りが生まれたことがおもしろかった。考えてみるとすごく今の仕事に通ずるところがありますね。