「自分らしさ」を追い求めるとき、そこに他者の視線が介在してしまうことがある。「あの人にはどう見られるだろう」「この人はどう感じるだろう」……。その結果、ときには本心とは異なる道を選択してしまうこともある。一体どうすれば、自分らしく生きられるのだろうか。

そんな問いに答えをくれる存在がいる。インテリアデザイナーとして活躍する、福井直人さんだ。「人が活きる空間造り」をモットーとする福井さんが手掛けた物件は、国際的なデザインアワードにもノミネート。現在は東京・虎ノ門ヒルズステーションタワー内のプロジェクトにも声がかかるほどの活躍ぶりだ。しかし、そのキャリアは最初から順風満帆だったわけではない。自分を信じ続け、むしろ泥臭いまでに真摯に道程を歩んできた。

だからこそ、彼の言葉には重みがある。その足跡から、やりたいことや夢に真っ直ぐ向かっていくための心の持ち方を探っていく。


税理士を目指していた大学生時代に訪れた、転機

画像1: 税理士を目指していた大学生時代に訪れた、転機
――福井さんはインテリアデザイナーとして活躍されていますが、大学生までは税理士を志していたそうですね。

福井:祖父母が税理士事務所を経営していたんです。しかも、実家の近くに住んでいたので、日常的に祖父母の働く姿を目にしていたし、毎年、海外旅行にも連れて行ってくれるような人たちだったので、漠然とした憧れを抱いていましたね。自分も頑張れば、祖父母のような大人になれるかもしれない、と。

――ご両親も税理士をされていたのですか?

福井:いえ、父は建築関係の自営業で、母は祖父母の事務所でパートをしていました。ふたりとも忙しくしていたので、家族みんなで食卓を囲む機会は少なかったように記憶しています。とはいえ、家族関係は非常に良好で。少ないながらも家族団らんの時間は大切にする家庭でした。

兄とはいまだに仲が良くて、ふたりで買い物に出かけたり、カフェでお茶をすることもありますよ。そして僕らふたりとも、母のことをなにより大切に想っている。一緒にスーパーに行ったら荷物は持ちますし、母は良い息子たちを持ったんじゃないかなって思います(笑)

実は、兄は双子でしたが、幼少の頃に双子のうちひとりを亡くしています。とても辛い経験をしたことで、母は命の尊さについて真剣に考えるようになり、僕らのこともとても大切に育ててくれました。その反面、危ないことはさせてもらえず、バイクの免許を取りたいと言ったときも猛反対で。今思えば、それが愛であるとわかるんですけどね。

――では、将来についてもいろいろ言われたのではないでしょうか?

福井:そこは僕の意志を尊重してくれる人でした。何かを強制されたこともない。だから将来については、すべて主体的に決定しました。税理士になるつもりで大学では経営学を学びましたし、簿記や税法を専攻しながら資格取得に励みました。

――それがなぜ、インテリアデザイナーの道に?税理士とは全く違う職種のように思えます。

福井:本格的に就活を始めた頃、祖父母からこう言われたんです。「あなたが独立する頃には、いまよりももっとコンピューターが普及して、税理士の数は減っていくかもしれないし、食べていけなくなるかもしれない。私たちは興味があることをやってきたんだから、あなたも同じように興味があることを追求しなさい」って。

税理士は事務所に入って働く人よりも、独立する人が多い。だから、僕が独立しようとしたときにはもう食べていけないのではないかと心配してくれたんです。

――将来を見越した上でのアドバイスだったんですね。

福井:そうなんです。それを聞いて、自分の興味があることは何だろうと考えてみました。そこで気づいたのが、「インテリア」と「ファッション」。大学生の頃は学校の近くで一人暮らしをしていたんですが、インテリアにはめちゃくちゃこだわって部屋づくりをしていましたし、バイト代はほとんど洋服に消えていました。

でも、ファッションは難しいとも感じていました。その頃、海外ではファストファッションが流行っていて、その波はすぐに日本にやって来るだろう。そうなると、デザイナーものは売れにくくなりそうだな、と。一方でインテリアについては、まだまだ余白があった。この先、日本にも欧米のスタイルが根付くはずだけど、国内でそれを取り入れている人は少ない。つまり、そこにチャンスがあるんじゃないかと思ったんです。

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――学生の頃にそこまで計算していたのがすごい……!

福井:せっかく尊敬する祖父母が「好きなことをやりなさい」と言ってくれたのに、市場を見誤っては意味がないじゃないですか。そうしてインテリアの世界で生きることを決めて、大学4年生のときに、建築やアートを学ぶためにイギリス留学をしたんです。

帰国後は大塚家具に入社し、社会人としての経験を積みました。営業職だったので、周囲の人たちから認めてもらうためには「結果」を出すしかない、と考えていて。そのために知識や技術を身につけるのはもちろん、それ以上に、人との関係を重んじていましたね。

人間関係を築くことができなければ、どんなに知識があっても誰にも話を聞いてもらえない。だから、自分自身のことを素直に打ち明けて距離を縮めることを意識しました。その結果、どんどん顧客が増えていき、入社1年目に新入社員のなかで全国3位の売上を出すことができたんです。

――全国3位! 狙っていてもなかなか叶えられない結果だと思います。

福井:僕をごひいきにしてくださっているお客さまに報告したら、「おめでとう!もし、福井さんが独立して大塚家具という看板がなくなったとしても、これからも福井さんから買いたいと思っているんだよ」と言ってくださる方がたくさんいた。「自分をさらけ出して人とつながること」は間違っていないんだな、と実感した瞬間でしたね。

その後も結果を残せていたので、4年目には銀座の新規出店の立ち上げをやらないか、と誘われたんです。でも、それはお断りすることにしました。


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