何者でもない自分に手を差し伸べてくれた人々と、同じ立場で働き、生活していく

画像1: 何者でもない自分に手を差し伸べてくれた人々と、同じ立場で働き、生活していく
―田口さんはその後、ビジネスとチョコレートの勉強を経て、再びガーナへ。クラウドファンディングで募った資金をもとに、2021年にガーナでチョコレート工場を建設されています。ガーナに工場を作るというのは大変なことだったのではないでしょうか。

田口:「ガーナに工場を持っている」とお話すると、よほどインパクトがあるのか、みなさん驚いてくださるんですが……。私はガーナだからこそできたことだと思っています。

クラウドファンディングで集まった資金は400万円ほどです。日本でビジネスを起こそうと考えたら、400万円では十分とはいえませんが、ガーナでの工場建設費用はほぼこのクラウドファンディングの資金で賄えました。

―工場建設のための土地や人手は、どのように調達したのでしょうか?

田口:初渡航からずっとお世話になっている、村の “長“ がいます。村のみんなは ”キング“ と呼んでいるのですが、そのキングに「日本ではチョコレートが日常にあって、だからここにチョコレート工場を作りたい」と直談判したら、喜んでくれて。まず土地の課題はクリアできました。

残るは人手の問題ですが、ガーナでは家や村の施設などを、村の男性たちが協力して作るという風習があります。そこで、工場を作りたいことを体格のよい村の男性に話して、「あなたの友人のマッチョたちを連れてきてくれない?」と頼んだら、予想以上に大人数のマッチョたちを連れてきてくれたんです……というか、人が殺到してしまって(笑)。彼らに建設をお願いして、設備も村の人と一緒に作り上げました。

一人じゃできないことがわかっていたから素直に「助けて」と言えたし、ガーナのみんながそれに応えてくれたから、工場を完成させることができたんです。

画像: ▲田口さんが建設した工場でチョコレート製造が始まった(ご本人提供)

▲田口さんが建設した工場でチョコレート製造が始まった(ご本人提供)

―村のマッチョたち、すごい!(笑)。そうして始まったチョコレートの生産ですが、現地だからこそ苦労された部分はあるのでしょうか。

田口:たっくさんあります! まずは味の担保。日本のチョコレートは効率的に大量生産するために、保存料や乳化剤、香料など多くの添加物を使いますが、ガーナではそういったものは手に入りません。カカオときび砂糖だけでチョコレートを作り上げるので、いかにおいしくするかは苦労しました。

カカオ農家さんたちは愛情を込めて丁寧にカカオを作っていますが、雨量など気候によって質に差が出てしまうんですよね。「MAAHA CHOCOLATE」のチョコレート製品はガーナの工場で作っていますが、販売開始当初は、お客さまから「以前と味が違う」と言われて焦った時期もありました。

でも、「味を統一するためになんとかしなくちゃ!」というのは、私が目的としていた「ガーナのカカオの味を知ってほしい」と反するように思えたんです。そこで考えた結果、味ムラを逆手にとって「今年のガーナは雨が多かったからこういう味がするんですよ」と背景もお伝えするようにしました。「MAAHA CHOCOLATE」の楽しみ方が増えたようにも感じています。

 

画像: ▲田口さんがこだわり抜いた「MAAHA CHOCOLATE」。常に「再入荷待ち」となるほどの人気だ

▲田口さんがこだわり抜いた「MAAHA CHOCOLATE」。常に「再入荷待ち」となるほどの人気だ

―作る年によって味が変わるなんて、まるでチョコレート界のボジョレー・ヌーヴォーですね……!

田口:ありがとうございます(笑)。あとはやっぱり工場で働く現地の人の理解を得るのが大変でした。私はガーナに365日ずっといられるわけではなく、営業活動などのために日本に来る必要があります。

日本にいる期間は現地の責任者に工場を任せているのですが、当初納品されたチョコレートを見てみると……カカオ80%のチョコレートと20%のチョコレート、2種類が入っていたんです。私がオーダーしていたのは、日本人が好むとされている、カカオ60%のチョコレートであるにもかかわらずです。「どういうこと?」と梱包されているメモを見ると「私たちはこれのほうが売れると思う!」と書いてあって。

その背景として、ガーナでは、男性は筋肉質なほうがモテるんです。だから脂肪がつかないよう、男性向けにカカオ80%のチョコレートを作った。一方で女性は、ふくよかな体系であるほどモテるので、女性向けには砂糖たっぷりのカカオ20%のチョコレートを作った……ということだったんです。

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―な、なるほど……。ガーナの男性・女性に好まれるチョコレートを作って、送ってくれたわけですね。

田口:そうです(笑)。今考えれば、作ってくれた彼らの気持ちもよくわかるのですが、最初は「なんでオーダー通り作ってくれないの!?」と苛立ってしまうこともありました。

「もうダメかもしれない」と何度も考えたことがあるのですが、そのたびに「私は、ガーナのカカオの魅力を伝えたいんだ」と初心に立ち返り、なんとか現地のみんなにも楽しく働いてもらえるようにと工夫していきましたね。

―楽しく働いてもらうために、たとえばどんな工夫をされたのでしょうか?

田口:私が今もよくやるのは、「日本の人たちって、なんか知らないけどカカオ60%のチョコレートが好きらしいよ」って現地のみんなに、噂話のように話すこと。「なんでオーダー通り作ってくれないの?」っていうのはあくまでも日本人目線の意見ですよね。そうではなくて、私もガーナの人と同じ目線に立ち、同じ立場で話していくうちに「ふーん、日本人がそういうのが好きなら、しょうがないから作ってあげるよ」って言ってくれるようになって。

私はガーナで、何者でもない状態で工場を作った。彼らはそんな何者でもない私に手を差し伸べてくれている人たちです。意見が対立したときは「私はガーナのみんなと同じ立場だよ」と言葉で表すことで、少しずつ彼らと打ち解けてこられたと思っています。

―田口さんは、現地の方たちと同じような生活をされているそうですね。そんなところも打ち解けるひとつのカギになっているのでしょうか。

田口:あまり「打ち解けるために一緒に生活している」という気持ちはなくて、もうその生活があたりまえなんです。

朝起きたら、村の中で放し飼いにしている鶏を「この子は太ってきたからそろそろ食べようかな」と捕まえたり。カカオ農園にも村の人と一緒に出勤するし、食事も村のみんなと食べます。冷えた水のシャワーを浴びたり、腰まで川に浸かってモノを運んだり……。

日本は便利で快適ですが、ガーナでしか見られない満天の星空やジャングル、そして人のあたたかさに囲まれて、ごくごく自然にガーナで生活していますよ。


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