「オンライン飲み会緊急脱出マシーン」「タンスの角をLV100にするアイテム」「アメリカンドッグの下のカリカリ部分だけを存分に味わえるスティック」……。一見すると「無駄なもの」をテーマに発明を続けてきた藤原麻里菜さん。その活動はSNS上を中心に話題を集め、藤原さんは「無駄づくり」発明家として唯一無二の地位を築いている。

だからこそ、その道のりにはロールモデルがいなかった。「前例がない」道のりを歩むのは、決して容易なことではないはずだ。それでも藤原さんが自分を信じることができたのは、どうしてなのだろう。

「無駄づくり」を始めたきっかけから創作活動にかける思いまで、藤原さんの“これまで”を辿りつつ、「自分らしく生きる」ヒントを見つけてみよう。



まったく同じことをしている人はいない。それでも仲間がいる

画像: まったく同じことをしている人はいない。それでも仲間がいる
――藤原さんの現在の肩書きは、「無駄づくり」発明家。他に類を見ない活動ですが、この道に進もうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

藤原:元々はお笑い芸人を目指していたんです。でも売れているわけでもなく、毎日が暇で、時間もすごくあったので、他に何かやってみようかなと。そこで見つけたのがYouTubeでした。当時は今みたいにまだ有名なプラットフォームじゃなかったんですけど、なんとなくノリで動画投稿してみることにしました。

いろいろ考えて、最初に、ピタゴラスイッチのようなものをつくって投稿してみようって思ったんです。だけど失敗しちゃって。でも、その失敗を失敗のままで終わらせるのは嫌だなと思い、失敗を「無駄づくり」という言葉に変換してみました。それが「無駄なものをつくる」という活動のスタートです。

――「なんとなくノリ」で始めたものが、現在では仕事になっているんですね。でも、「発明家」というだけでもレアなキャリア選択なうえに、藤原さんの活動にはロールモデルがいないと思うのですが、そんな状況に不安を感じる瞬間はありませんか?

藤原:たしかに「無駄づくり」にロールモデルはいないんですけど、たとえば、変なおもちゃをつくる明和電機さんという芸術ユニットの土佐信道さんとはとても仲良くさせてもらっているんです。

私はライターとして文章を書くこともあるんですが、その世界にはもちろん諸先輩方が大勢いますし、収入源のひとつであるプロモーション広告には、広告の先輩方から学んでいることが反映されています。つまり「無駄づくり」に焦点を当てるとたしかにロールモデルは存在しないんだけども、何か面白いことをやっている先輩方や、私の仕事の一部において先を行く先輩方は大勢いらっしゃるんです。だから私は決してひとりじゃないし、何かを表現する仲間がたくさんいるように感じています。
※土佐信道氏プロデュースによる芸術ユニット。青い作業服を着用し作品を「製品」、ライブを「製品デモンストレーション」と呼ぶなど、日本の高度経済成長を支えた中小企業のスタイルで、様々なナンセンスマシーンを開発しライブや展覧会など、国内のみならず広く海外でも発表。音符の形の電子楽器「オタマトーン」などの商品開発も行う。

――なるほど。そう考えると孤独ではない感じがしますし、仲間の活動に励まされる気もしますね。

藤原:そうですね。私の表現手段が「無駄づくり」であるだけで、根本にある表現したい思いやコアな部分は、いろんな人と共通しているんだと思います。

画像: かっこいい自撮りができるマシーン

かっこいい自撮りができるマシーン

――現在ではYouTubeの「無駄づくり」チャンネルの登録者数が10万人を突破していますね。多くの人が「無駄づくり」に対して興味を持っているからこその結果だと思います。

藤原:実はあまり数字にこだわっていなくて、10万人を超えたのも最近ようやく気付いたくらいなんです。もちろん、すごくうれしいんですよ。登録したからといってみんなが私のことを好きとは限らないけど、それでもちょっと気にかけてくれている人が10万人もいるというのはとてもうれしい。でも、そこまで数字にこだわっていないので、この先さらに見てくれる人が増えても、私がやることは何も変わらないんじゃないかなと思います。

――数字には左右されない、ということですね。

藤原:そうとも言えるかもしれないけれど、もしかすると、逃げているところもあるのかもしれません。多分、お金持ちになるとか、地位や名誉を手に入れるとか、そういうわかりやすい成功を目指すのであれば、数字に向き合ったほうが早いと思うんです。でも私は数字に追われるのが苦手すぎて。何人増えた、減ったみたいなことに一喜一憂したくないんですよ。

たとえば学校の授業の成績とかも数字で計られるじゃないですか。それも苦手で逃げていました。良かったとしても悪かったとしても心に響く感じがあって、すごく嫌なんです。X(旧Twitter)やInstagramのフォロワー数も気にはなるんですけど、メンタルにあまり良くないと思うので、なるべく気にしないようにしています。

――例えば、SNS上で自分の名前で検索をかけたり……もしないんですか?

藤原:元気なときにしかしませんね。たまにそれが面白くなるときがあって、そういうときは「何か悪口書かれていないかな?」と探したりします。でも、あくまでも自分の状態に合わせて、ですね。

――つまり外的要因で変な影響を受けないように気を付けている。

藤原:それはとても大切なことだと思います。特に「無駄づくり」って、たったひとりで考えてつくり上げるほうが、結果的に変なものが生まれる気がするんです。もちろん、文章であれば編集者さんからの指摘を受けて直すことで、とても完成度が高いものが生まれます。そういうものも好きな一方で、「無駄づくり」は孤独にやっていくほうがいい。だからSNS上のコメントでいただく「次はこういうことをやってください」という声も、ありがたいとは思いつつもあまり気にしないようにしています。


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