八百屋として商いを続けていくために、事業の軸を増やす

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――青果ミコト屋の事業は、アイスやランチ、イベント開催やケータリングと幅広く、もはや”八百屋“としての枠は超えています。ビジネスとして成立させるために工夫していることはありますか?

鈴木:じつは、野菜の販売部門はそれほど利益が出ていません(笑)。売場にいつもスタッフをつけるのも、なかなかお金がかかります。でも、そうやって想いを伝えることが一番やりたかったことだから、アイスやケータリング、イベント出店といったいろんな事業で軸を増やし、帳尻を合わせています。

だから、マネタイズは課題だらけだけど、このまま八百屋としての商いを続けていければそれでいい。お付き合いする農家さんや販売する野菜の量を少しずつ増やして、これまでより少しでも多くのお客さんに届けていけたら充分です。

事業としてひとつ望むなら、働いてくれている人の環境をもっとよくしたいと思っています。ミコト屋の仕事って、めちゃくちゃ大変なんですよ。でも、ここでしか得られない人生の価値があると信じてうちを選んでくれたわけだから、それに報いたい。お金でというより、いろんな産地や面白いイベント、素敵な人との出会いをたくさん提供してあげたいですね。僕自身も、ふいに出会った山中タイキさんと絵本を一緒に作ったりして、経験の幅が広がりました。

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▲鈴木さんのご友人の山中タイキさんの絵本。山中さんから鈴木さんをご紹介いただいたご縁でこのインタビューが実現した。

――絵本まで! やはり八百屋の域を超えている……。青果ミコト屋として、今後新たに挑戦したいことはありますか?

鈴木:特定の地域に昔から生息している「在来種」の野菜を大切にしたいと思っています。在来種は、前年にとった種を、翌年に蒔いて育てます。種をとり、同じ土地に蒔き続けることで、その土地に合った野菜が育つ。そんな在来種はやっぱり超絶うまいし、強い個性を持っているんですよね。でも、食べる人がいないと消えていってしまうから、もっと光を当てたいです。

そのための取り組みとして考えているのが、漬物。たとえば、岐阜県の石徹白エリアでしかつくれない伝統野菜の「石徹白(いとしろ)かぶら」は、地元の名産「かぶら漬け」に使われています。石徹白の多くの農家さんは日ごろ、品種改良された市販の種から野菜を育てているけど、「かぶら漬けだけは石徹白かぶらじゃないとだめだから」と、昔ながらの方法で種とりをしているんです。そんなふうに、漬物とともに残っている在来種は少なくありません。

漬物を追うとその土地の伝統と食文化が見えてきて、面白いですよ。店でやろうと思うとめっちゃ大変だし、においの問題もあるけど……(笑)

ただ、僕らはそういう野菜や農家さんの応援をしていきたい。ミコト屋を拠点に、知らなかった野菜と出会って食べるようになってくれたお客さんもたくさんいます。その裾野を広げられるように、これからも地道に、伝えることを続けていきたいです。

画像: ▲「micotoya house」で日常的に繰り広げられる、スタッフとお客さまとのフラットな会話。この日もお客さまとの会話に、たくさんの笑顔が実っていた

▲「micotoya house」で日常的に繰り広げられる、スタッフとお客さまとのフラットな会話。この日もお客さまとの会話に、たくさんの笑顔が実っていた

画像: 野菜の物語を伝える接客に、フードロスを防ぐアイス。畑と食卓をつなぐ「青果ミコト屋」店主・鈴木鉄平さん

鈴木鉄平

旅する八百屋「青果ミコト屋」・クラフトアイスクリームブランド「KIKI NATURALICECREAM」 代表。3歳までをモスクワで過ごし、横浜市青葉区で育つ。20歳の時にネイティブアメリカンに惹かれてアメリカ西南部を放浪。ヒマラヤで触れたグルン族のプリミティブな暮らしに魅せられ農の世界へ。2010年に高校の同級生・山代徹と共に、店舗を持たずに全国の産地を巡る「青果ミコト屋」を始動。2021年に実店舗「micotoya house」をオープン。著書「旅する八百屋」(アノニマ・スタジオ)。

執筆:菅原 さくら 撮影:梶 礼哉

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