誰もが「ちがう」想いや悩みを持って⽣きています。でも、もしかしたら誰かが導き出した答えが、あなたの答えにもなるかもしれません。「根ほり花ほり10アンケート」では、さまざまな業界で活躍する“あの人”に、10の質問を投げかけます。今回は、組織開発コンサルタント・勅使川原真衣さんが登場。
きっと、「みんなちがって、みんなおんなじ」。たくさんの花のタネを、あなたの心にも蒔いてみてくださいね。
勅使川原真衣（てしがわら・まい）
1982年、横浜市生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て組織開発コンサルタントとして独立。2児の母。2020年から進行乳がん闘病中。著書『「能力」の生きづらさをほぐす』（どく社、22年）は紀伊國屋じんぶん大賞2024で第8位入賞。続く『働くということ 「能力主義」を超えて』（集英社、24年）は新書大賞2025にて第5位入賞。その他著書多数。最新刊は『学歴社会は誰のため』（PHP研究所、25年）。日経ビジネス電子版、論壇誌Voice、読売新聞「本よみうり堂」にて連載中。
①今の仕事に就いた経緯は?仕事のやりがいや楽しみは?
人材開発をさんざんやってきたうえで、人に良し悪しがあるわけではなく、人と人の組み合わせや人とタスクの組み合わせに難があるのだと思うようになりました。
初作の『「能力」の生きづらさをほぐす』（どく社）にも書きましたが、人材に良し悪しをつけて「よくする」＝人材開発や能力開発、ではなく、どう組み合わせて活かすのか？ を試行錯誤する組織開発を探究するようになり、今があります。
デキる人・デキない人と選別することなく、さまざまな凸凹を組み合わせるのはまさにレゴブロックを組み立てる感覚・インクルーシブ（包摂）そのもの。人手不足と呼ばれる現況にあっても、今いる人の組み合わせを工夫することで組織力を最大化できるので、無理や欺瞞（ぎまん）がないことも、私にとっての大きなやりがいです。
②これまでの自分の人生にキャッチコピーをつけるなら?
©Maki Amemori
おのみずな人生、でしょうか。「おのみず」とは私が代表を務める会社名——「自ず（おのず）」と「自ら（みずから）」のあいだ——が、生きるということだと2017年の設立当時、思い至り、命名しました。
わが身を振り返っても、自分で思い描き、その計画や目標に食らいついてきたこと半分、流れのままに行き着いたこと半分、が私の人生。私のみならず多くの人が主体と客体を彷徨い、中動態的に世界を漂流しているのだと今も思っています。
自立した個人＝自己コントロールに長けた個人を過度に称揚し、自律性や能動性を過信した社会は危ういとも常々思います。そんな大それた者では何人（なんぴと）もありませんから。
③今までに人生の分かれ道に立ったとき、どう考えてどう決断してきた?
自分を大事にする道を選んできました。自分を大事にすることの解像度を上げると、私にとっては、①没頭できることを専門性にして仕事にすること、②好きな人たちといること、③睡眠時間を週49時間以上とれること、です。
①は人生において仕事の比重というのは大きいので、大事にしている選択軸です。私にとって、問いをつくることとその問いに応えようと調べながら体系的に言語化することは、寝食を忘れるほど食らいつけるもので、それが教育社会学×組織開発という独自の分野になりつつあります。面白がれるものはやっぱり強い。逆に、違和感や疑問が自分のなかで絶えないのに、答えは１つしかないのだと正しさを強要される場面や人物は、居心地が悪く、距離をとることが多いです。
その意味で、②とは、多様な人の多様な価値観に良し悪しをつけることなく、面白がってくれる人たちとともにいるようにしています。あと、大病をしてはじめて気づいたのですが……人間は寝ないとダメですね。週のなかで調整しながら、およそ７時間くらい寝るとよい調子でいられるので、それも重視しています。
④休日明けの朝、仕事に行きたくないと感じることが多いです。そんなときどうしますか?
会社員の頃は本当にそうでした。大事なのは、「行きたくないな」と感じる自分を慈しむこと。何も悪いことではないし、必ずその背景や理由があるはずなので。「やだねぇ」と自分をハグする気持ちで、それでも続けるべきこと・続けたいこと・続けられることなのか？ 自問自答してもいいでしょう。
私も30代後半からようやく、しんどいと嘆く自分を一旦は受け止めて、「じゃあどう在りたいんだろう？」「そのために今できることは何か？」などセルフコーチング的に考えるように。そうして今は組織開発の仕事も執筆の仕事も、自分の意の赴くままに取り組んでいるので、「休日」があるようでない感覚になりました。巷には、「一流の休み方」が云々という話もあるようですが、私からすると、休み方まで誰かに良し悪しをつけられたり、ジャッジメンタルな視線を向けられたくありません。
⑤仕事において、やりたいことや目標がみつかりません。そんな自分はダメでしょうか?
©ハービー山口
今、仮にやりたいことや目標がないのは、ただ単にそういう「状態」ということ。人は揺れ動く存在であるのに、つい能力主義的に良し悪しを固定的に内在化させる癖が強いがゆえに、「ダメ」なんて自分のことまでジャッジしてしまうのではないでしょうか。
「ダメ」というのは一元的な正しさがある前提の、能力主義的価値観。希望に満ち溢れる瞬間もあれば、すべてが無謀に思えて二の足を踏むこともあります。それでこそ自然。それぞれが自然体でいられて、その凸凹・持ち味を組み合わせることで力強く歩める場所やチームを模索したいものです。
⑥将来に対して漠然とした不安を感じてしまいます。どんなマインドを持てばいいのでしょうか?
生き方に「正解」があると思うと、不安になります。幸か不幸か、生き方に唯一解はありません。今、試行錯誤し、胸を張っていられる、自分を好きでいられる選択をつづけているのなら、大変ありがたいこと。不安になって妄想する隙があったら私は、今感謝できることや、誰にも話したことがないが実は成し遂げたいと思っていることなどを書き出してみたりといったことを、よくしていました。べき論で自分を縛らず、自身の発想を自分でしっかり受け止めることが大切だと今も思っています。
⑦時間とお金の使い方のこだわりを教えてください
闘病しながら子ども二人をワンオペで育てつつ執筆や組織開発の仕事に没頭しているので……周りの支えなしには到底、生活が回りません。よって、自分を支えてくれている人たちへの謝意の表明にこだわりを持って時間とお金を使うようにしています。お世話になっている方々とじっくり語れる場所で食事をしたり、その方々がゆっくりできるよう、ボディケアグッズやお花、見つけた美味しいおやつなどを贈ることもよくあります。私も同じようにそうしてもらっているので、互いに報おうとしている関係性の表れかもしれません。
⑧過去の自分にメッセージを送るなら?
使い古された表現ですが、「自分を信じて」とまずは言いたいです。みんなとちょっと違う感覚に生きづらさを感じているかもしれないけれど、その感覚こそを活かした自分にしかできない仕事を、おいおいやれるよ、と伝えたいです。
自分を信じられないとき、自分を慈しめないときが不安の元です。不安になっている暇なんてないほど人生は短いですから、せっかくの命をとにかく慈しみたいもの。13年前に長男を産んだときに母からもらったカードに一言だけ「たくさん慈しみなさい」と書かれていました。「愛す」と言うと照れくさいし、具体的にどうしていいのかわからないところもあるのですが、大切に扱いなさいという教えは、日に日に納得感があり、今は自分も周りも「慈しみ」の眼差しを向けることをとにもかくにも大事にしています。
⑨将来どんな暮らし、生き方がしたい?
あと何年生きられるのかわかりませんが、今こうして生かしてもらえている御恩に報いるべく、次世代に恩送りをしたい。その一つの形として、今現在の活動のとおり、社会の理不尽に説得力をもって抗っていこうとしています。口を塞がれた人、声を上げられない人に代わって声を上げ、選抜的・競争的な社会ではなく、包摂の道を耕し続けたいと思っています。肉体が仮に朽ちても、そうして多くの人と生き合った（≠生き抜いた）痕跡は消え失せないものだと信じていますから。
⑩勅使川原真衣さんにとって、「自分らしく働く」とは?
自分らしく働き、自分らしく生きたいからこそ、周囲の人と生き合うことが近道。「自分らしさ」を深ぼり続けていても、ドーナツのように中心が空洞化するのが自己ではないかと考えています。他者とともに、影響し合いながらゆらゆらと歩むのが人生であり仕事。自分を知り、周りを知ったうえで、慈しみ合いながら、面白がれたら最高だと思っています。「成果」や「成功」を狙うのではなく、慈しみ合いのプロセスそのものが愛しき人生なのではないでしょうか。
現在も闘病中でいらっしゃる勅使川原さん。ひとつひとつのご回答が力強く、優しく、そして誠実で、胸を打たれました。「愛す」と言うと照れくさいけれど、「慈しむ」というと納得感がある……この言葉が心にじんわり沁み込みます。家族や友人、そして自分自身を慈しむ気持ちを改めて大切にしたくなる、そんなメッセージをありがとうございました。
