2023年10月に出版されるやいなや、瞬く間に重版出来となり、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」では総合グランプリを受賞した『きみのお金は誰のため』。2025年2月時点で27万部を突破するこのベストセラーを書いたのが、社会的金融教育家として活躍する田内学さんだ。
その経歴は異色の一言。東京大学大学院を卒業後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。トレーダーとしての経験を積んだが、キャリア16年目の2019年に退社し、執筆業の世界へ飛び込んだ。
目の前に並ぶものが数字から文章に変わっても、自分らしい道を歩み続けられる理由はどこにあるのか。田内さんの生き方には、人生に迷う人へのヒントが隠されているかもしれない。
東大を目指した理由は「親の期待に応えるため」

田内:いえ、決してそういうわけではなくて。実家は茨城で蕎麦屋を経営していたんですが、父親からは「自分は中学までしか行けなかったから、お前には東大に行ってもらいたい。学歴社会のなかで、学歴を掴んでほしい」と繰り返し言われていました。その言葉から社会の世知辛さを感じ、じゃあ勉強を頑張ってみるか、と。
しかも、小学生の頃にこの蕎麦屋を畳むことになってしまい、「どうせ引っ越すなら、東大進学率のいい灘高の近くがいいだろう」と、兵庫県に引っ越すことに。となると、もう進路を選ぶ余地なんてありません。無言の圧力で、灘高から東大へのルートが決められてしまったようなものです。
田内:そうですね。ただ、「東大に入ること」がゴールになってしまっていたので、いざそれを達成したときに、その先、なにをすればいいのかわからなくなってしまいました。
田内:東大に入ってからしばらくして、将来は自分の好きな数学を活かせる道に進めばいいかもしれない、と考えるようになりました。とはいえ、数学者として食べていくのは難しいですし、他にどんな道があるのかもわからない。
知人に誘われるままプログラミングをはじめ、エンジニアとして働きながら東京大学大学院情報工学系研究まで進んだのですが、常にもっと自分を活かせる業界はないのだろうか、と模索していました。
そうしたら、「金融の世界でトレーダーをやってみないか?」と声をかけてもらって、ゴールドマン・サックスでトレーダーとして働くことに。面談時には数学の問題を出されたんですが、ちゃんと解けたので採用していただけたみたいです(笑)