自分の感性を信じてみて。ロールモデルはいなくたっていい、なぜなら……

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――日本では、お金については人と話をしない空気がありますし、丁寧に教わる機会も少ないように思います。だからこそ、田内さんの活動が金融リテラシーを育むための一助になりそうです。

田内:たしかに日本人は金融リテラシーが低いと言われがちですよね。ただ、それ以上に、社会に “不安を煽るようなメッセージ” が溢れていることが問題だと思います。ぼくらはそこに気付かなければいけない。

「日本人は金融リテラシーが低すぎる! いまから資産運用をしないと将来が危ない!」などという言葉に惑わされるのではなく、社会でなにが起きているのかを見極めてほしいんです。

たとえば「早い段階で投資をはじめないと損するぞ」と言われると、どうしても焦りますよね。あるいは「幼児期の教育が大事ですよ」とか「30代のうちにスキンケアをしておかないとボロボロになりますよ」みたいな不安を煽る広告もそうですし、「いまなら半額です」といったお得感によって目を引く販売方法などもそうですが、どれも「時間への焦り」を刺激しています。冷静な判断を失わせて、お金を使わせようとしているんです。

だから、お金について学ぶ上で最も大事なのは、「自分にとって必要なものはなにか」という価値観を養うこと。社会に溢れている、消費者の不安を煽ったり、不要なものを買わせようとしたりするメッセージに左右されず、本当に欲しいものや必要なものを選別する物差しを持つ。それが金融リテラシーを持つことへの第一歩だと思います。

――それを伝えていくのが、まさに「社会的金融教育家」の仕事なんでしょうか?

田内:そうかもしれませんね。そもそもぼくが社会的金融教育家という肩書で仕事を始めたのは、他にやっている人がいなかったからです。世の中に足りていない存在なのに、誰もやらない。だったら、ぼくがやればいいか、と思ったんですよね。

この仕事を始めてから、お金の不安を感じている人がこんなにも大勢いるのだと気付きました。でも、その不安は資産運用をしたところで解決できないことも多い。必要なのは、まず、お金の正体を知ることです。だから、今後はそれを明らかにするような本を書きたいと思っています。でも、それは短期的な目標ですね。実は長期的なことはあまり考えていません。

5年前のぼくは、自分が本を出すことも、こうしてインタビューを受けることも想像していなかった。その都度その都度、出会った人がいて、選択肢を得て、自分なりのベストを選んできた結果、たまたまこうなっているだけなんです。でも、それくらいでいいんじゃないかと。

キャリアを考えるとき、よく「ロールモデルを探そう」なんて言うじゃないですか? それってなんだか勿体ない気がしていて。たとえば、全然知らない町をふらっと歩いていて、偶然入ったお店のご飯がものすごく美味しいことってありますよね。それは誰の真似もせずに自分の感性を信じたからこそ、見つけられたお店とも言えます。ところが、人は失敗を恐れるあまり、前例を探そうとします。知らない町のことを紹介しているブログを読み漁って、その人が美味しいと評価しているお店に入ろうとする。自分の感性を信じて探してみたら、もっと自分が美味しいと思えるお店が見つかるかもしれないのに。

だから、ロールモデルをなぞりすぎるのは、自分の可能性を狭める行為なのかな、とも思うわけです。

ぼくはロールモデルを見つけず、長期的なことも考えずに、そのときそのときで最善の選択をしながら生きていきたいですね。それがぼくらしい生き方、働き方なんだと思います。

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画像: 「誰もやらないなら、ぼくがやればいい」。金融トレーダーから執筆の世界へ。社会的金融教育家・田内学さんの選択

田内学

1978年生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了後、2003年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日本銀行による金利指標改革にも携わる。2019年に退社し、執筆活動を始める。著書に『お金のむこうに人がいる』、高校社会科教科書『公共』(共著)など。2023年10月に出版した『きみのお金は誰のため』は20万部を突破し、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」で総合グランプリを受賞。社会的金融教育家として、学生・社会人向けにお金についての講演なども行う。

執筆:イガラシダイ 撮影:梶 礼哉


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