誰もが「ちがう」想いや悩みを持って⽣きています。でも、もしかしたら誰かが導き出した答えが、あなたの答えにもなるかもしれません。「根ほり花ほり10アンケート」では、さまざまな業界で活躍する“あの人”に、10の質問を投げかけます。今回は、歌人・俵万智さんが登場。きっと、「みんなちがって、みんなおんなじ」。たくさんの花のタネを、あなたの心にも蒔いてみてくださいね。

俵万智(たわら・まち)

歌人。早稲田大学第一文学部卒。1986年、作品「八月の朝」で第32回角川短歌賞受賞。1987年、第一歌集「サラダ記念日」を出版、ベストセラーとなる。翌年、「サラダ記念日」で第32回現代歌人協会賞受賞。2004年評論「愛する源氏物語」で第14回紫式部文学賞受賞。第四歌集「プーさんの鼻」で2006年 第11回若山牧水賞受賞。歌集の他、小説、エッセイなど著書多数。歌集「未来のサイズ」で詩歌文学館賞、迢空賞。長年の清新な創作活動と短歌の裾野を広げた功績により朝日賞受賞ならびに紫綬褒章。最新刊は『生きる言葉』(新潮新書)。


①今の仕事に就いた経緯は?仕事のやりがいや楽しみは?

学生時代に短歌と出会いましたが、はじめは直接仕事には結びつきませんでした。高校の教師をしていた時に出版した第一歌集『サラダ記念日』が幸いにも大きな反響を呼び、徐々に短歌をはじめ書く仕事が増えました。自分の好きなことが仕事の中心にあるのは、幸運なことだと思います。短歌の場合、人の作品の選をすることも多いのですが、初心者でもハッとするような歌を詠めるのが定型詩の面白いところですね。たくさん詠んで、たくさん読むのが日々の仕事になっています。


②これまでの自分の人生にキャッチコピーをつけるなら?

画像1: 俵万智さん(歌人)の「根ほり花ほり10アンケート」

『言葉の国の人だから』
とにかく言葉が大好きで、何をするのも、言葉に関わることへの興味が原動力になってきました。その中心にあるのは短歌ですが、エッセイ、作詞、絵本の翻訳、古典の現代語訳など、言葉にまつわることならさまざまなことに、楽しみながらチャレンジしてきました。

何かひとつ、徹底的に好きなモノやコトがあると、それを窓にして世界が広がるように思います。私の場合は、それが言葉でした。


③今までに人生の分かれ道に立ったとき、どう考えてどう決断してきた?

短歌にまつわる仕事や書く仕事が増えてきて、教師を辞めるかどうか迷っていたとき、瀬戸内寂聴さんに相談しました。

「学校という組織には、あなたの代わりはいくらでもいるから、辞めても大丈夫」と背中を押され、その考え方は今も一つの指針となっています。もちろん、代わりのいないほど素晴らしい先生はいますが、自分は教師としては新米のまま終わりました。そのぶん、こちらの道で、代わりがいないような仕事をしたいなと思っています。子育て中は、なかなか仕事も存分にはできませんでしたが、その時は、子どもにとって自分は代わりのいない存在なんだと考えることにしていました。


④休日明けの朝、仕事に行きたくないと感じることが多いです。そんなときどうします か?

金曜の六時に君と会うために始まっている月曜の朝

という短歌を詠んだことがあります。目の前に、おっくうなことがある時は、その先に目を向けるようにしています。それは誰かとの約束でなくてもかまいません。出かけたい美術展や見たいドラマ、読みたい本など、自分との約束でもいいと思います。


⑤仕事において、やりたいことや目標がみつかりません。そんな自分はダメでしょうか?

やりたいことや目標というのは、探して見つかるものでもないように思います。特に仕事なら、なおさらではないでしょうか。仕事というのは、社会とのつながりの中でお金をもらうというものですから、まずはそれ(働いてお金をもらう)ができていれば、やりがいの第一歩は達成できているとも言えます。地味ですが、その積み重ねのなかで、面白さや喜びを見つけていくことができれば、それが目標につながるのではないかなと感じます。あるいは、仕事は仕事と割り切って、他にやりたいことや目標を持ってもいいのではないでしょうか。


⑥将来に対して漠然とした不安を感じてしまいます。どんなマインドを持てば良いのでしょうか?

画像2: 俵万智さん(歌人)の「根ほり花ほり10アンケート」

将来に対してまったく不安のない人はいないと思うので、それはむしろ健やかなあかしではないかと思います。私自身も、戦争や温暖化といった大きなことから、息子が学校を卒業できるだろうかといった目先のことまで、いろいろ不安はつきません。でも、将来というのは、一日一日の積み重ねの結果ですから、やっぱり今日を大事に納得いくように過ごすことかなと感じます。

とはいえ漠然とした不安って、漠然としているからこそぬぐえないんですよね。そんな時は、一日一日とは逆の考え方ですが、視点を大きく持ってもいいかもしれません。

地ビールの泡(バブル)やさしき秋の夜 ひゃくねんたったらだあれもいない

なんだかんだ言っても、自分も周りの人も、百年後にはいないのです。それを思ったら、私はサッパリした気持ちになります。


⑦時間とお金の使い方のこだわりを教えてください

どちらも、どんな人と一緒に使うかを一番大事に考えます。たとえばデートに誘われたとき、「この人と、河原でおにぎり食べながらでも楽しい時間を過ごせるかな」と自問します。答えがイエスなら、デートに行きます。ノーだったら、どんなに高級な、すごく行ってみたいようなお店に誘われても、やめておきます。たぶんそれは、いい時間の使い方にはならないと思うから。逆に、河原でおにぎりオッケーの人なら、自分が奢ってでも一緒に食事をしたいなと思います。


⑧過去の自分にメッセージを送るなら?

画像3: 俵万智さん(歌人)の「根ほり花ほり10アンケート」

ありがとう。あの時がんばってくれたおかげで、楽しく充実した日々を送れているよと言いたいです。あの時とは、たとえば歌集がベストセラーになって社会現象とまで言われて、もみくちゃにされていた時。あるいは、一人で息子を育てる決心をした時、などです。渦中にいる時は大変でも、その大変さは必ず未来につながっているものだと、振り返ってみて感じます。


⑨将来どんな暮らし、生き方がしたい?

その年齢その年齢でしか見えない景色があると思うので、それを短歌に詠んでいきたいです。たとえば恋の歌は青春時代の特権のように思われますが、三十年物の恋は二十代の人には詠めませんよね。もちろん恋愛だけでなく、日々の暮らしのささやかなときめきを掬えるのが短歌のいいところなので、日々アンテナをはって言葉を紡いでいきたいです。


⑩俵万智さんにとって、「自分らしく働く」とは?

働けるというのは、なにかしら自分が必要とされているということなので、ありがたいなと思います。あたりまえのことですが、締め切りは守ります。それも、たいてい早めに仕上げます。原稿が早いのではなく、むしろギリギリになったときにすばやく書く自信がないからです。

仕事とは言えないかもしれませんが、一番ぜいたくなのは「頼まれもしないのに書く」ことかなと思います。依頼はもちろん嬉しいですが、とにかく書きたい気持ちがおさえられず書いてしまったものが、のちのちなんらかの仕事に結びついたら最高ですね。めったにそういうことは起こりませんが。

最後に「自分らしく」ということについて、こんな一首を。

秋の陽に淡く満たされ野菊らは自分探しの旅を思わず

つまり、自分は自分でいれば、それだけで十分に自分らしいのでは?と思います。


画像4: 俵万智さん(歌人)の「根ほり花ほり10アンケート」

俵さんのあたたかく優しく、そして凛としたお言葉の数々を読んで、自分の毎日にもきっとときめきを見つけられる、一日一日を大事にしよう、と前向きな気持ちになれました。短歌の魅力も改めて教えていただきました。自分の今の気持ちや悩みに寄り添ってくれる一首があるってこんなに心強いんですね。ちなみにこの原稿も、お願いしていた日程より早めに仕上げてくださいました!さすがです。俵さん、ご回答ありがとうございました。

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