苦しんだ10年間が僕に教えてくれた、幸せに生きるために大事なこと

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――野口さんは、日本人で初めて国際宇宙ステーションでの船外活動を行うという偉業を達成されました。しかし、2009年の二度目の宇宙飛行から帰還したあとの約10年間、「自分は必要とされていないのではないか」という喪失感に苛まれたそうですね。

野口:二度目の宇宙飛行で、当時の日本人としての飛行回数や宇宙での滞在日数、船外活動の回数など、ありとあらゆる記録を塗り替えることができました。しかし一方で、「あれ? この次はどうすればいいんだろう……」という気持ちになってしまって。しかも、記録というのはどんどん塗り替えられていくものですから、僕が打ち立てたものも更新されていくわけです。すると、記録は抜かれ、優秀な後輩たちも育ち、僕にしかできないことはあるんだろうかとネガティブになっていったんです。

でもこれはきっと、宇宙飛行士に限った話ではないですよね。どんな仕事でもある程度のピークを極めた後、ガクッと落ち込んでしまったり、自分の存在意義を見失うことがある。

――そういう人に対して、同じような経験をされた野口さんならどんなアドバイスを送りますか?
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野口:以前の僕は、相対評価のなかで生きていて、与えられたミッションを達成し期待に応えることが当たり前だと思っていました。しかし、そういった考え方のなかでは、自分のアイデンティティを築き、幸せを得ることが難しくなってしまう。

二度目の宇宙飛行後、“燃え尽き症候群”で苦しんだ10年間で分かったことは、他者の価値観や評価を軸にしていては本当の意味で幸せにはなれないということです。「自分はどういう人間で、なにが大事で、なにができるのか」を考え抜き、最終的には「自分はこうありたい」というミッションを見つけることが本当の幸せにつながります。自分が納得して得たものは誰からも侵食されず、奪われることもありませんから。

それを踏まえて、たとえば企業に勤める方にアドバイスをするならば、「まずは多くの日本の企業の体質を理解しましょう」でしょうか。会社組織は基本的にミスを避けようとするため、必然的にチャレンジしづらい環境が生まれます。また前例主義の場合は、同じことをやれと指示されることもある。これによってなにが生じるのかというと、個人が見えにくくなってしまうということです。集団に個人が埋没しがち、ともいえるかもしれません。そして「会社と自分が合わない」と感じることが、働きづらさにつながり、悩むことも多くなるのではないでしょうか。

――それを理解したうえで、どうすればいいのでしょうか?

野口:あまり自分を責めすぎないことです。本当に大切にすべきなのは、他者ではなく自分の評価軸ですし、そういった社会構造の中で生きているのだから、一人ひとりが燃え尽きてしまったり、心が折れたりするのは当然なことなのだと理解したほうがいい。

仕事をしていて「こんなに頑張ったけれど、次は何をすればいいんだろう」とか、人と比較して悩んだり苦しむ瞬間があったとしても、それはあなただけじゃない。実際に僕もそうでした。現代を生きる人の多くが同じ経験をしているわけです。だから、「こんな風に落ち込むなんて、自分がだめなせいだ」なんて思わないでほしい。むしろ、弱さの情報開示を率先してするべきだと思いますよ。

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――「弱さの情報開示」ですか。

野口:そうです。例えば何かきっかけがあって心が折れてしまったとして、それを隠そうとするのは「自分が悪い」と思い込んでいるから。でも、必ずしもあなたが悪いわけではないと思います。想定外のことが起これば、誰だって落ち込みますし、心が折れます。全力で走っていた人がなにかの拍子に転び、骨が折れてしまうのと同じです。

でも、骨を折った人に対して、「甘えるな」「そんなこといいから、歩けよ」なんて言う人はいませんよね?心が折れてしまった人に対しても同様であるべきだと思います。でも、いままでの日本はなかなかそれができなかった。心の問題を根性論で片付けることも多かったのではないでしょうか。

そんな風潮はいい加減変えるべきだし、そのためにも私たち皆が弱さをひとりで抱え込まないことが大切です。心が折れたときはそれを周囲に打ち明け、専門家による適切な治療を受け、また歩けるようになればいい。それを周囲も当たり前のものとして受け入れる社会であってほしいな、と思います。

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