つい先日、2冊目のあたらしい著書『明日、もっと自分を好きになる - 私らしく生きるをかなえる感性の育て方- 』という書籍を出させてもらった。

初めて書籍の確認データが自宅に郵送されてきた時、帯にあったわたしの肩書きは「写真家・エッセイスト」で、中のプロフィールは「フォトグラファー・コラムニスト」になっていた。更にその原稿を確認中、東京で登壇予定だったフリーランスが集まるイベント案内には「トラベルグラファーの古性のちさん」という紹介文が綴られていた。

人やイベントによって私はWebライターになるし、デザイナーや作家になることもある。

綺麗な日本語をSNSで紹介している謎のインフルエンサーとして認識されていることも多い。

そのどれもが合っているし、場面によっては違うとも言えると思う。

これは私が何度も表向きの肩書きを変えてきた後遺症なのだけれど、この、職業キメラみたいな自分の状態が長年ずっとずっとコンプレックスだった。 ※ギリシャ神話に登場する、複数の動物の要素で構成された生き物

「熱しやすく冷めやすい・飽き性・忍耐力がいまいち乏しい」

という子供の頃から自他ともに認める印象はそのまま、20代、様々な職業を点々とする形でしっかり現れた。

最初の職種は美容師からはじまりカフェスタッフ、Webデザイナー、Webディレクター、Webライターを経てフォトグラファーに。その間に独立をしようとしたこともあったし、コワーキングスペースのアルバイトもした。バイヤーをかじった事もあったし、アクセサリー作家に憧れて真似っこをしたこともあった。

職種を変えるたびに、それまでどうにか丁寧に積み重ねてきた積み木が、跡形もなく崩れていくような、何とも不安な気持ちになった。一方でよそ見などせず、どんどん積み木を高く積み上げていく同級生を横目で眺めてはため息をついていた。

このまま自分は何も掴めないまま大人になっていくのだろうか、と眠れなくなることもよくあった。

「色々と好奇心の赴くままに手を出しているから古性は成長が遅いんだよ。20代はこれ!と決めたものにまずは踏ん張って挑まないとだめだよ」と私に言ったのはWebデザイナーとしてアルバイトをしていた会社の若い社長で、何だか恥ずかしくなって何も言い返せなかった。

そんな時「人間には、 1つの事を深く追求して 極めていくダイバータイプと、好奇心が強く次から次へとやりたいことをやっていくスキャナータイプがいる」
という内容が書かれた書籍と出会った。

「スキャナータイプの人間は、人からは『一体何をやりたいのか?』と不思議がられ、親にも説教される。けれど、いつかやってきた事が全て繋がり、その人だけのオリジナルブレンドが出来上がるのだ」

とそこには書かれていて、この言葉がずっともやもやしていた私のコンプレックスを優しく溶かしてくれた。

「大丈夫。あなたはあなたのまま生きなさい」と言われているような気持ちになった。

多様化が進む現在、10年前は想像もしなかった職業が世界にはあふれている。

一歩日本の外に出れば、「弁護士とコーチングとエンジニアをやっています」なんて人や、「キャンドル作家をやりながらデザイナーと速読の先生をやっています」なんて人もいる。どの人もみんな楽しそうに生きていて、ポジティブで、柔軟な人が多いのが印象的だ。彼らも一度は私と同じように悩んで、受け入れて、吹っ切れたのかなあ、なんて思う。

2007年、アメリカのジャーナリスト、マーシー・アルボハーが複数の職業や肩書きを活用しながらキャリアを形成していく概念を「スラッシュキャリア」と提唱した。

音楽家 / コピーライター / ジュエリーデザイナー…のように複数ある自分の肩書きをスラッシュであらわしていく。多い人は10個も11個もスラッシュが並ぶ人もいる。

いまだに、その道一筋で自分の積み木を積み上げていくダイバータイプの人に出逢うと萎縮してしまうし、大きな仕事を任されるたび「私よりすごい人がこんなにいるのに!」と自分を卑下してしまうのだけど、頭ではもう、無理やりひとつの肩書きに絞らなくても良いことを理解している。

新しいことを始める時、手放す時、誰かに何を言われたとしても、気にすることはない。

沢山のスラッシュを作って、誰も真似できないような、複雑な味のオリジナルブレンド作りに一生懸命になれば良いだけなのだ。

結果きっと、それがずっと自分を支え続けてくれる武器になる。


画像: スラッシュキャリア・シンドローム 古性のち<第二回>

古性のち

1989年横浜生まれ、タイ・チェンマイ在住。短い書き出しから物語を広げていくショートショートや、何気ない日常をドラマチックに綴る文章が得意。現在はSNSを中心に「写真と美しい日本語」を組み合わせたシリーズ作品を展開中。2022年単著「雨夜の星をさがして美しい日本の四季とことばの辞典」発売。尊敬する作家は吉本ばななさん・原田マハさん。


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