まずは「自分の半径5メートルにいる人の環境」を平和にしたい
みたらし：そのためにも、私はLGBTQ＋当事者にとっての「居場所づくり」をしていきたいなって思っているんです。2023年12月には有志のメンバーと一緒に、トランスジェンダーの若者たちに向けて、セーフティな場をつくる試みにチャレンジしました。表向きはフリーマーケットなんですが、メイクレッスンが受けられたり、試着室や多目的トイレも用意されていたりして、安心して楽しめる場所です。
私は臨床心理士だしカウンセラーだから、やっぱり、目の前の人とじっくり話すことが「自分にできること」だと思っています。普段はそれをカウンセリングルームという小さな部屋の中で行っていますが、これからはその場所を広げていきたくて。フリーマーケットで出会った子たちが、日常生活でつらくなったとしても、「また来年、あの場所に行こう。だから大丈夫」って思ってくれたらいいな、と思うんです。
同時に、社会的マイノリティの当事者を矢面に立たせて説明させるような風潮も終わりにしたいと考えています。社会的マイノリティの当事者に対して理解のない人たちは、いつも同じ質問をします。そして当事者は何度も繰り返し、自分の苦しかったことや自分が変えたいと思っていることを説明させられる。それって暴力的なことだと思うんです。
だから私は、当事者が散々説明してきたことについて、代わって説明ができる人間でありたいなと思っています。みんなたくさん傷ついてきた、だからこれ以上傷ついてほしくない。もちろん、当事者の声は大事ですし、その声を奪うつもりもありません。でも、当事者に対して、必要以上に説明責任を負わせる流れは変えていきたいと考えています。
みたらし：でも、実際は絶望することばかりですよね……。他の国では戦争も起きているし、日本だってもうすでに他人事ではない。なにかを変えようとするとバックラッシュも起こる。ただそれでも私は、信じ続けることで変わるものもある、と思っているんです。
私は自分がいるこの世界を、平和な場所にしていきたい。だとするならば、それを信じて動き続けるしかないですよね。そのためにはまず、半径5メートル、10メートルにいる人たちの環境を平和にしたい。
綺麗事と言われてもいいんです。そのためにできることがあるなら、自分の力を振り絞りたいと思っています。先ほどの「居場所づくり」もその一環です。それを続けていったら社会を変えていく波紋の一つになるかもしれないし、それが “絶望の中の希望”だとも思っています。
みたらし：私にとっての「自分らしさ」って、自分一人では成立しないものだと思っています。環境や周りにいる方々によって、はじめて、私は私らしさを表現できる。
「自分らしさ」とは名詞ではなくて、動詞に近い気がするんですよね。「いま、私は自分らしくいるな」と思いながら行動するのではなくて、いろんな人に囲まれている中で動き続けたり、話したり、考えたりしている自分そのものが「自分らしさ」という感じです。
だから、動き回って、未来から振り返ってみたときに初めて「あ、自分らしく生きてこられたな」と感じるんじゃないかな、と思います。だから自分らしさを意識せずとも生きていけることが理想ですね。
みたらし加奈
1993年、東京都生まれ。臨床心理士・公認心理師。大学院卒業後、総合病院の精神科に勤務。専門家と共に性被害や性的同意に関する情報を発信するメディア『mimosas（ミモザ）』の代表副理事も務める。現在、メディアにも出演しSNSを通して精神疾患やLGBTQの認知を広める活動、講演会を行なう。2021年11月、自分らしさを表現し、全ての女性に勇気を与え、価値ある活動を行う人を表彰する 「ロレアル パリ WOMEN of WORTH Award」文化人部門を受賞。
取材・執筆：イガラシダイ
編集：野風真雪
写真：梶 礼哉
