自分に正直でいい。“好き”を見逃さないで
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戸田:私もずっとそうだった。だからこそ言いたいの。「自分のやりたいことをきっちり自分で考えてみなさい」って。みんな、あっちだこっちだって揺れてるでしょ。それは駄目よ。自分は何がしたいのかを認識して、近づけるように一歩一歩踏みしめて進んでいかなきゃ。その心構えが大事。
もちろんそうしても、すぐに何者かになれるとは言いませんよ。でも自分で考えなきゃ。人がやってるからとか、本に書いてあったからじゃなくて。
「好きなことをしなさい」っていうと、「好きなことがわかりません」と返ってくることが多いけれど。それは、自分をわかっていないあなたがいけないと言いたい。好きってつまり、楽しいってことよ。これをしていると楽しいと思えることがあるでしょう?私は映画が好きで観ていると楽しかった。本を読むのも楽しいから好き。でも運動は楽しいと思えないからやりませんよ。
戸田:なぜ自分に嘘をつくの?正直でいいじゃない。やりたいことのために我慢しなきゃいけない時は我慢するけれど、でもそれはさほど多くない。別のたどり着き方を探せるかもしれないし、あるいはすこし我慢したっていいじゃないですか。本当に好きなものがわかっていれば、そのためなら頑張れると思います。
戸田:87歳の身ですから、ある日突然寿命がくるかもしれない。でも今、十分楽しいもの。ありのままの私と仲良くしてくれるお友達もたくさんいる。英語で「I have nothing to complain.」というフレーズがあるけど、私も今、そうね。不満に思うことは何もありません。
でもやっぱり、頭がしっかりしている限り字幕翻訳はずっとやり続けたいわね。いつかできなくなる日がくるかもしれないけれど、その時までフィクションの楽しさをずっと感じていたい。
戸田:「自分の好きなことをやる」ですよ。そこにすべてがあると私は思います。好きなことを見逃さなければ、それなりに楽しい人生を生きられる。人が何を言おうと構わずにね。それが重要よ。みんな、人のことを気にしすぎてると感じるの。良く思われなくたっていいじゃない。恥ずかしいことも悪いこともしてないんだから。
「私はこういう人間です。自分の思うように生きます」って、開き直っていきましょう。すべては自分の気持ち次第だもの。私にもできたんだから、あなたにもできますよ。
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![画像: フィクションが私を導いてくれた。字幕翻訳者 戸田奈津子さんの“好き”を貫く生き方](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783656/rc/2023/11/21/632212b55c6dc52ce25c1a7acfc5d8b9b4b635df_xlarge.jpg)
戸田奈津子
映画字幕翻訳者、通訳者。津田塾大学を卒業後、金融機関勤務や通訳・翻訳のアルバイトをしながら映画字幕翻訳者を目指した。1970年に『野生の少年』で字幕翻訳デビュー。1979年公開のフランシス・フォード・コッポラ監督作『地獄の黙示録』の大ヒットをきっかけに話題作を次々に担当。これまで1500本以上を手がける。2022年に通訳者としての引退発表後も、映画字幕翻訳者として精力的に活動を続けている。
取材・執筆:紡もえ
編集:山口真央
写真:梶 礼哉