誰もが「ちがう」想いや悩みを持って⽣きています。でも、もしかしたら誰かが導き出した答えが、あなたの答えにもなるかもしれません。「根ほり花ほり10アンケート」では、さまざまな業界で活躍する“あの人”に、10の質問を投げかけます。
今回は、「雑談の人」こと、桜林直子さんが登場。きっと、「みんなちがって、みんなおんなじ」。たくさんの花のタネを、あなたの心にも蒔いてみてくださいね。
桜林 直子(サクラバヤシ ナオコ)
雑談の人。株式会社サクアバウト代表。2011年にクッキー屋「SAC about cookies」を開業。自店の運営のほか店舗や企業のアドバイザー業務などを行う。コラム、エッセイなどを執筆。著書『世界は夢組と叶え組でできている』土門蘭さんとの共著『そもそも交換日記』。マンツーマン雑談企画「サクちゃん聞いて」主催。ジェーン・スーさんとのPodcast『となりの雑談』配信中。
①今の仕事に就いた経緯は?仕事のやりがいや楽しみは?
今は「雑談」を仕事にしています。自分のことについて整理整頓する手段として、わたし自身は「書き出す」というやり方をすることが多いのですが、周りを見てみると書くのは難しいという人も多い。ですから、「書き出すかわりに、目の前に聞いてくれる人がいて〝話す〟ならできるのではないかな」と思い「自分の話を思い切りできる場」を作りました。
人の話を聞くのはとてもおもしろく、「いろんな人がいるなあ」と学びにもなります。やりがいという意識はないのですが、自分の話をしてくれるだけで「話せてよかったね」と思います。
マンツーマンでクローズドの「雑談」だけでなく、雑談を人に聞いてもらう形(Podcastやトークイベント)で話すのも、楽しいです。
社会に出て20年働いてみたら、仕事を長く続けるには「自分が楽しい」と思う要素がないと難しいのだなと痛感し、「これならいくらでもできそう」ということを仕事にしました。
② これまでの自分の人生にキャッチコピーをつけるなら?
「第1章:困難乗り越え物語/第2章:広場でピクニック」
30代に入る頃までは、目の前の困難を解決して乗り越えるのが人生の目的でした。でも、それを続けていたら自ら困難を探して近づいているような気がして「それはぜんぜん楽しくないぞ」と。のびのび居られる場所を自分で選び、自分がよろこぶことをしようと思い直しました。
第1章と第2章のビフォーアフターで、自分の設定ひとつで 見えるものや出会うものがこうも違うのかとわかったのが面白かったです。
10代で親の介護、20代からはシングルマザーとしての子育てなど、若い頃に困難が多かったことは事実で、まずは乗り越えられてよかったと思いますし、問題解決する筋力は仕事にも役に立ちました。ただ、それが得意技になってやり続けてしまうと、つい「自分が楽しむ」から離れてしまうので、切り替えて第2章に突入できてよかったと思います。
③ 今までに人生の分かれ道に立ったとき、どう考えてどう決断してきた?
以前(第1章)は、とにかくしつこく考え続けました。その頃は、選択や決断によって、自分が困っていることを困っていない状態にすることがすべてだったので、戦略と目的を決めて何をすべきか考え行動していました。
最近(第2章)では、単純に自分にとってよい環境をつくること、のびのびできるかどうかがすべてになりました。以前は「どうするべきか」対策を考えていたのが、いちばんはじめに「自分はどうしたいか」が出てくるようになりました。「そんなことできないかも」という不安が出てきても「でもそうしたいんだから(またはしたくないんだから)仕方ないよな」と優先できる感じです。
④休日明けの朝、仕事に行きたくないと感じることが多いです。そんなときどうしますか?
わたしは「仕事の日/休みの日」とくっきり分けていません。その理由は、自分のやる気を信用していないし、毎朝定時にやる気が出るわけがないし、1日8時間もやる気が続くわけもないと思っているからです。そのかわり、できるときにちゃんとやることを課しています。1日の中に仕事をする時間と休みの時間をぬるっと混ぜて、行き来するのがわたしには向いているようです。
やる気がないときは、難しく考えずにできることから手をつけて、自分を騙して働かせることもあります。やる気があるときにグッと入り込んでやる仕事と、単純作業や事務仕事のように手を動かす仕事の使い分けをしています。
⑤仕事において、やりたいことや目標がみつかりません。そんな自分はダメでしょうか?
わたしはいつもやりたいことがなく、その手前で「やりたいこと」って一体なんのことを指して言っているんだろうと長らく考えていました。考え続けた結果、今では自分の欲を知って満たすことは大事だと思うようになりました。しかし、仕事においては、個人の欲を満たすことよりも目の前の仕事をちゃんとやることの方が大事だと思っています。
わたしが仕事においていちばん大事にしていることは「適材適所」です。できることをするのが自分にとってもチームや社会にとってもいいことだと思うので、自分が何なら苦痛じゃなくできるのか、こだわりをもってより良くしようと思えるのか、自分の持つ「材料」を知り、それを活かせる場所に行くことがなにより大事だと思います。
自分ができることをしていれば、その先で「もっとこうしたい」と小さなことでも自然に思えるようになると思うのです。
まず気になることなどをやってみて行動しながら「やりたいこと」見つけていくやり方も大いにアリだと思います。
また、仕事と生活を分けずに、自分のしたい生活のために働くとか、趣味の時間を楽しむために働くのもいいと思います。「やりたいこと」は仕事の中になくても、どこかにあればそこから仕事のモチベーションは作れます。
⑥将来に対して漠然とした不安を感じてしまいます。どんなマインドを持てばいいのでしょうか?
わたしは「漠然とした不安」を感じることはあまりなく、というのも、それどころじゃなく常に「具体的な問題」があったからです。
それをいい感じに言い換えるとすれば、漠然とした不安がやってきたときのために、具体的に何が不安なのかを一旦いくつか用意しておくのはどうでしょうか。たとえば「お金が足りないこと」だとしたら、漠然な不安がきたら「仕事頑張って稼ぐしかないか」と終えられるとか、「病気になること」だとしたら「とりあえずよく寝よう」とか、今すぐできることに視野をずらすことができるかもしれません。
漠然とした不安がやってくるのがよくないことだとしても、意識して止めるのは難しそうなので、やってきたときにいかに早めに止められるかの小技みたいなものを用意しておくといいのかなと思います。
具体的な問題には解決が必要ですが、漠然とした形のないものに対しては解決ではなく「オバケがいると思ったけどよく見たらカーテンの影だった」みたいな「怖さをなくすこと」や「考えすぎるとよくないという事実」に注力した方が良さそうです。
⑦お金と時間の使い方のこだわりについて教えて下さい
お金は使い方と稼ぎ方をセットで考える。時間は増えないので何を優先するかを考えるのが基本です。
お金は人によって必要な分量が違いますが、時間はどんなに必要でも増えないので、「時間がなくてできない」という人には「時間がないんじゃなくて違うことに使っているだけだよ」と言う、スパルタな考え方を持っています。
これは私がシングルマザーという立場で、育児中のあまりの時間のなさに「少ない時間でどう稼ぐか」を考え尽くした際に訓練されたものです。具体的に訓練されたのは「優先順位をつける」でした。あれこれやろうとしても全部は無理だから諦めて、そのかわりに優先順位の上位は必ずやると決めないと、ほんとうに何もできなくなるので。
⑧過去の自分にメッセージを送るなら?
おつかれ!ほんとによく頑張った!
いつか「神は乗り越えられる困難しか与えない」と聞いたとき、「困難を乗り越える度にどんどんハードルが高くなるならしんどいな」と思ったことがありますが、とりあえずその困難乗り越え競技には、はりきって参加しなくていいよと言いたいです。自分をよろこばせる競技にも参加してください。
⑨将来どんな暮らし、生き方がしたい?
何も無理をせず、快適に暮らしたいです。歳をとったからといって自在に生き方を変えられるわけではないので、きっと相変わらず正直でしかいられないと思います。気が合う人とおしゃべりをしながら、好きなものを食べて暮らせれば最高です。
⑩桜林さんにとって、「自分らしく働く」とは?
やはり「適材適所」がかなっていることです。自分だけでなく、関わる人たちもみな、できることをするだけでよろこばれるのが理想です。
自分らしくいられるかどうかは「誰と働くか」がほとんどだと思うので、敬意を持ち合える好きな人たちと働きたいです。
自分を認めるためや誰かに認めてもらうために働くのではなく、同僚でもお客様でも、「この人たちに恥じないよう良い自分でいたい」と思えると、仕事を通して自分が作られていく気がしています。
自分を消さずに活かし、役に立つ場所を探し続けることになりそうです。
編集部コメント(E・Y)
仕事が「雑談」ということでどんな方なのか興味津々でアンケートを読ませていただきました。仕事が思うように進まず自身を責めてしまうことってありませんか。そんな時⑤でお答えくださった「自分の持つ「材料」を知り、それを活かせる場所に行く」というコメントを読んで苦手なことに立ち向かうことも大切ですが、自分にできることにも目を向けることで得意を知り、それを生かせる。すると仕事に前向きに取り組めるのではないかと感じました。自分の持つ材料はどんなものなのか考える機会になりました。桜林さん、ありがとうございました!