誰もが「ちがう」想いや悩みを持って⽣きています。でも、もしかしたら誰かが導き出した答えが、あなたの答えにもなるかもしれません。「根ほり花ほり10アンケート」では、さまざまな業界で活躍する“あの人”に、10の質問を投げかけます。
今回は、著書「きみのお金は誰のため」で広く知られる、社会的金融教育家の田内学さんが登場。
きっと、「みんなちがって、みんなおんなじ」。たくさんの花のタネを、あなたの心にも蒔いてみてくださいね。
田内学
1978年生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了後、2003年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日本銀行による金利指標改革にも携わる。
2019年に退社し、執筆活動を始める。著書に『お金のむこうに人がいる』、高校社会科教科書『公共』(共著)など。2023年10月に出版した『きみのお金は誰のため』は20万部を突破し、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」で総合グランプリを受賞。社会的金融教育家として、学生・社会人向けにお金についての講演なども行う。
①今の仕事に就いた経緯は?仕事のやりがいや楽しみは?
金融トレーダーとして証券会社で働いているときに、「老後資金2,000万円問題」などの日本社会のお金の問題について考えるようになりました。
「きみのお金は誰のため」でも書きましたが、老後に向けてお金を貯めることは個人にとっては備えになるものの、実は社会全体としては将来の備えにはなりません。今、起きている円安や物価高の問題も、日本全体が沈んでいる深刻な問題なのに、株価が上がれば大丈夫だという風潮があることに危機感を持っています。
何が起きているのかをきちんと理解して、みんなが当事者意識を持って未来について考えていくことが大事だと思うようになり、思い切って会社をやめて今の仕事を始めました。本の執筆だけでなく、学校などでも講演しています。
本の読者や講演先の先生や生徒から、「働くことへの意識が変わりました」とか「将来への不安が薄まりました」などといった感想をもらえるのが、一番のやりがいです。
②これまでの自分の人生にキャッチコピーをつけるなら?
「0.1%可能性があれば、突き進む」
0.1%の可能性があれば、チャレンジしようと思って生きてきました。0.1%というと1000分の1です。右の道にいくか左に進むか、一回の選択で未来は2通りに分かれます。2回の選択だとその倍の4通り。3回だと8通り。そうやって考えていくとたった10回の選択で自分の未来はだいたい1000通りある。0.1%って低いようですけど、2択を10回間違わなければ実現できるということなんです。
③今までに人生の分かれ道に立ったとき、どう考えてどう決断してきた?
「迷ったら、困難な道を選べ」
これは、僕自身の高校最後の数学の授業で、先生が僕ら卒業生に向けた人生のアドバイスです。楽な道と困難な道があって、やりたいことが楽な道なら、そもそも迷ったりしない。迷っているということは、困難な道の先にやりたいことがあるということなんです。
その先生の授業の内容は申し訳ないながらあまり覚えてないのですが、最後の言葉だけは胸に刻まれていますね。
④休日明けの朝、仕事に行きたくないと感じることが多いです。そんなときどうしますか?
仕事への責任感よりも、行きたくない気持ちが大きければ休めばいいと思います。問題なのは“休んじゃいけない”とか“自分が行かないと周りが困る”と思い込んでいて、休めないことだと思います。それができないのは、経営者や個人事業主。でも、そういう人たちは、やりたいことを仕事にすることができますよね。
⑤仕事において、やりたいことや目標がみつかりません。そんな自分はダメでしょうか?
そんなことありません。むしろ、やりたいことや目標が見つかるのは、相当ラッキーなことだと思っています。「0.1%可能性があれば、突き進む」とさきほど回答したのは、まさにそこです。
目標は実現することよりも、見つけることの方が難しいです。見つからない間は、充電期間だと思っておけばよいのではないでしょうか。
⑥将来に対して漠然とした不安を感じてしまいます。どんなマインドを持てばいいのでしょうか?
将来のことは、不確実な要因が多く、自分ではなかなかコントロールできません。“コントロールできない”と感じることが不安の原因の一つかなと思います。
まずは、自分が実現できる目標を立てて、それを達成する。たとえば、「毎週2キロ走る」でも、「毎朝納豆を食べる」でもいいと思います。ささいなことでも、それを実現して積み重ねることによって、人生は自分自身が動かしているという自信がつくはずです。
また、「将来不安」という言葉を最近よく耳にするのは、人間関係が希薄になっているからではないかと思います。困ったときに頼れるような人間関係を作っておくことも大事だと思います。
⑦お金と時間の使い方のこだわりについて教えて下さい
これも詳しくは本に書きましたが、お金を支払って、商品やサービスが手に入るのは、そこに働く人がいるからです。材料費なんてものは存在せず、すべての商品は誰かの労力に行き着きます。
つまり、お金を使うということは、誰かの時間を使っていることなんです。
この質問は「他人の時間と自分の時間の使い方のこだわり」とも言えますね。
こだわりはないですが、時間は誰にとっても貴重なので、無駄にしないように心がけてます。
⑧過去の自分にメッセージを送るなら?
「まわりのこと、社会のことを考えろ」
その方が実は生きやすいということに、この歳になって気づきました。自分のことではなく、自分たちのことを考える。それだけで、味方が増えます。
僕が、全く文章を書いたことがない状態から本を出版できたのは、みんなのため、社会のためになる本を書こうとしたからです。多くの人に協力してもらうことができました。
⑨将来どんな暮らし、生き方がしたい?
将来のことは全くわからないです。10年前は、今の自分が本を書いているなんて夢にも思わなかったですから。
今ある選択肢の中から、やりたいことを見つけて、挑戦し続けたいです。挑戦することで新たな選択肢が増え、新たな世界が見えたり新たな人と出会えたりします。
⑩田内さんにとって、「自分らしく働く」とは?
働くというのは、自分と周りのつながりを感じることだと思います。自分に求められていること、社会に役立つことを見つけて突き進みたいです。
「迷ったら、困難な道を選べ」。シンプルだからこそ、迷っている方々の背中を押してくれる言葉だと感じました。また、そうして田内さんが選択した困難な道が、今、たくさんの方々の未来を明るくすることに繋がっている……。そう思うと、よし、私も!と気合が入ります。みんなのこと、社会のことを考える優しさの中にも力強さを感じるメッセージをありがとうございました!