誰もが「ちがう」想いや悩みを持って⽣きています。でも、もしかしたら誰かが導き出した答えが、あなたの答えにもなるかもしれません。今月からスタートする「根ほり花ほり10アンケート」では、さまざまな業界で活躍する“あの人”に、10の質問を投げかけます。初回は、医師で大学の准教授である、内田舞さんがご登場。きっと、「みんなちがって、みんなおんなじ」。たくさんの花のタネを、あなたの心にも蒔いてみてくださいね。

画像1: 内田 舞さん(小児精神科医・ハーバード大学医学部准教授)の
「根ほり花ほり10アンケート」

内田 舞

小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長、3児の母。2007年北海道大学医学部卒、2011年Yale大学精神科研修修了、2013年ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修修了。日本の医学部在学中に、米国医師国家試験に合格・研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。趣味は絵画、裁縫、料理、フィギュアスケート。子供の心や脳の科学、また一般の科学リテラシー向上に向けて、三男を妊娠中に新型コロナワクチンを接種した体験などを発信。
著書『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る 』(文春新書) 『REAPPRAISAL(リアプレイザル)最先端脳科学が導く不安や恐怖を和らげる方法』(実業之日本社)などが話題を集めている。


①今の仕事に就いた経緯は?仕事のやりがいや楽しみは?

私のコアには、人間が好きなこと、そして科学、ソーシャルジャスティスがあります。
※一般的にSocialJustice(社会正義)とは、人々が平等に扱われ、社会全体の福祉の保障と秩序の維持を実現すること。 そのために、一人一人が持つべき考えや、守るべき社会ルールを指す。

基本私は人が好きで、新しい友達を作るとワクワクするし、色んな人と対話をするのが大好きです。また、人間がどのように感じて考えて行動に出るか、そんな人間がたくさん集まって作られている社会で、グループとしてどんな動きが起こるのかを考えることも面白いと思っていますし、そういったことを考えずにはいられないのです。

そして、人間が何かを感じたり考えたりすることを司っているのが脳という臓器。その脳がどんな働きをしているかを知りたいと本当に小さい頃から思っていました。脳の科学を背景に、その知識を使って、気分のコントロールなどに苦しんでらっしゃるお子さんやそのご家族を支えられる仕事ということで、小児精神科医という職は天職だと感じています。

また、「ソーシャルジャスティス」という概念が小さい頃から私のコアにありました。私は小学校のころアメリカやスイスで過ごしたことで、多様性、多文化、そして人種差別を経験しました。ヨーロッパはアメリカ以上に白人至上主義の伝統が残っていて、アジア人=馬鹿にしていい人というような扱いを頻繁に受けましたし、同い年くらいの子ども達に公園で囲まれて唾をかけられたこともありました。社会的に平等ではない立場に立たされたときの気持ちというのを私は身をもって体験しているので、差別や偏見に関しては、個人としても社会としても真摯に向き合っていかなければいけないと強く思っています。

そこで小児精神科の疾患というと、ほんの最近までは「子どもが自閉症になるのは冷たい母親の態度のせいだ」などと専門家さえもが言っていたくらい非科学的な偏見があった分野です。私は子どもの気分障害が専門ですが、昔と比べてずっとよくなったとはいえ、未だに子どものうつ病なんか存在しないと言う人もたくさんいますし、苦しんでいらっしゃるお子さんを見て、家族のせいなんじゃないかという家族に向けられた偏見だったり、精神疾患=クレイジーといったイメージもまだまだ消えないところがあります。

そんな非科学的な偏見によって、本当に苦しんでいる人が必要な診断や治療にたどり着かないこともあります。だからこそ私は科学を使って、ご家族や本人の負担をさげることも目指しています。


②これまでの自分の人生にキャッチコピーをつけるなら?

画像: ▲著書『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る 』(文春新書)

▲著書『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る 』(文春新書)

やはり一作目の単著のタイトルとなった『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』でしょうか。ソーシャルジャスティスは日本語に直訳すると社会正義、と固い言葉になってしまいますが、できるだけ多くの人が幸せに生きられる世の中を夢見る気持ちだと思っています。

自分の思いに素直に耳を傾け、その思いを共有すること、誰かと共感すること、そういったコミュニケーションや、自分自身の「気づき」と向き合うひとつひとつの努力が、ソーシャルジャスティスなのではないかと思っています。


③今までに人生の分かれ道に立ったとき、どう考えてどう決断してきた?

私の人生にとって一番大きな決断だったのは、大学時代に渡米を決意したことかもしれません。
当時は、日本の医学部、またさらに広い日本社会の中での女性の扱われ方にがっかりする経験が続き、どうして私は女性としてこのような経験をしなければならないのだろうとモヤモヤと嫌な気持ちを抱きました。何かがおかしいと気付きながらも、それを言語化できないと感じていたときに、日本のお茶の間で目にするメディアに描かれる女性像に目を向けました。

例えば、日本の女性像として描かれる存在に『ドラえもん』のしずかちゃんが挙げられます。彼女は私から見ると、優秀で優しく、人付き合いも得意で、多くの友人から信頼されている人物なのに、物語の中で彼女がリーダーシップを取って様々な決断をして人を率いたりする姿はほとんど描かれていないように感じます。のび太君をサポートしたり、お風呂を覗かれたりする。二次元でありながらも、社会の中で共有されている女性像がそこには投影されているような気がしてなりません。

そのように描かれる女性の姿を見るごとに、「女性にはそういうことが望まれている」という考えが無意識のうちに多くの男性や女性に植え付けられ、無意識の偏見が内在化していくのではないか――。気付いてみると、お笑い番組でも、ニュース番組でも、もちろん例外もあるのですが、そういった女性が多く映し出されているように思いました。

私自身は、「ここでは私はキャリアの上では気持ちよく能力を発揮させてもらえない、そして幸せな恋愛関係を持つことも家庭を持つこともできない可能性が高い、総合的な幸せを望むことはできないかもしれない」と考えて、日本ではなくアメリカで医師になろうと決意しました。

アメリカで医師になろうと決めたものの、そこに行きつくまでの努力は二度とできないと思うような大変な日々でしたが、未だに一度も後悔したことはありません。


④休日明けの朝、仕事に行きたくないと感じることが多いです。そんなときどうしますか?

生き甲斐を感じている仕事でも、私も毎日明るい気持ちで仕事に向かっているわけではありません。
朝起きるのも億劫ですし、子どもが生まれてからは、自分のスケジュールではなく、子どものスケジュールで動かざるを得ず、夫婦でひいひい言っています。

画像: ▲パートナーとの食事のひと時(ご本人提供)

▲パートナーとの食事のひと時(ご本人提供)

私はなるべく夫と協力して、子どもを学校に送るのを交代でやって、どちらか一人が一息つける時間を意識的に作っています。大好きなデカフェのカフェラテを飲んだり、少しでも運動ができるようにしているのです。

また、仕事も行くのは億劫だけど、始めてしまえば、やっている時間は楽しかったり、やりがいを感じる瞬間があったりするので、まずは始めの一歩を踏み出せばいいんだと自分にリマインドしてあげることもいいかもしれません。


⑤仕事において、やりたいことや目標がみつかりません。そんな自分はダメでしょうか?

そんなことはありません。目標ややりがいがはっきりしている人もいれば、仕事以外に生き甲斐を持つ人もいますし、特にワクワクしないけれど生活のために仕事をしているという人もたくさんいます。

ここに挙げた、どの例も意味があることで、自分に合う生き方でさえあれば、どれが良い悪いといったことはありません。


⑥将来に対して漠然とした不安を感じてしまいます。どんなマインドを持てばいいのでしょうか?

漠然とした不安の中にはどんな具体的な不安があるかを考えるところから始めてみます。そしてその不安に付随する考えだったり、経験があれば、それも全部書き出してみるといいかもしれません。

書くことによって、不安の根底には何があるかが明らかになることもあれば、その不安を払拭するために何をしなければならないかのタスクが見えてくることもあります。

あるいは、不安の原因がわかっても、状況を変えることはできないので、その不安を受け入れていくしかないということもあります。これを「ラジカルアクセプタンス」と言いますが、「受け入れる」は我慢することでも、何かを許容することでもなく、単に「私は不安なんだ」と事実を受け入れるということ。受け入れた途端に、すっと前に進めるようになることもあるのです。


⑦ライフステージの変化を選んだ理由・選ばなかった理由・迷っている理由は? (結婚・出産、もしくは独身でいることを選んだなど)

画像: ▲ご家族で迎えるクリスマス(ご本人提供)

▲ご家族で迎えるクリスマス(ご本人提供)

単にレールに乗っていればライフステージの次のステージが表れてくるように思えることもありますが、実際は選んだり、選ばなかったり、あるいは選んだ後にその選択を変えたり、と人生は様々です。
「社会に○○を求められているから」という理由で何かをする必要はなく、自分の人生のオーナーシップ(所有権)は自分にあると確認しながら、皆さんが人生を歩めることを祈っています。

私は幸い最高のパートナーと、三者三様にユニークな3人の子どもに恵まれました。私はキャリアにおいてある程度業績を上げてから一人目の子どもを生みましたが、その後どんなに準備をしていても、仕事をしながらの育児は予想を遥かに超える大変さでしたし、子どもが育つごとに必要なことがどんどん変わっていきました。また、不妊に苦しむ何人もの友人の苦しみを間近で見てきたことも考えると、準備してきても人生は計画通りにいかないこともあるということを知りました。

だから、「子どもを生む」選択に関しては、あまり考えすぎずに、自分と家族の幸せを基準に、ある程度なんとなくの選択をしてきたところがあるかもしれません。予想ができない状況の中で、その場その場での判断をパートナーと一緒にできる関係を築くことが一番大切なのかなと思っています。


⑧過去の自分にメッセージを送るなら?

渡米を目指した怒涛の日々や、アメリカで研修医として働き始めた頃の苦労。全部無駄じゃなかったよと言ってあげたいです。


⑨将来どんな暮らし、生き方がしたい?

私の子ども達は8歳、7歳、2歳なのですが、この8年半で子ども達と過ごした生活は、子どもができる前には全く想像できないものでした。なので、今後の家族としての人生がどのようなものかも全く想像できないものなのかなと思っています。

また、20代前半に離れた日本と、パンデミックのコロナワクチン啓発をきっかけにまた繋がりを持つようになることも全く予想できたことではありません。

だからこそ、今与えられた役割をしっかりこなし、一歩一歩生きていくしかなく、逆にその一歩一歩が積み重なって、何か大きなものに向かっているのかもしれないということに、ワクワクしますね。


⑩内田さんにとって、「自分らしく働く」とは?

最初に書いた通り、私のコアにあるものは、人間、科学、ソーシャルジャスティスです。

人を愛し、科学を追究し、その過程で社会がいい方向に向かうような働きかけができれば、最高だと思っています。


画像2: 内田 舞さん(小児精神科医・ハーバード大学医学部准教授)の
「根ほり花ほり10アンケート」


今月から始まった「根ほり花ほり10アンケート」。初回は内田舞さんが登場してくださいました! 小児精神科医でハーバード大学で准教授をされているというご経歴だけを見ると「ああ、自分とは遠い方なのだな」と思っていた私。・・・が、だからこそ「内田さんでも仕事に行きたくない日もあるんだ」「子育てでてんてこまいなのは、私だけじゃないんだ」と、なんだか勇気をいただきました。そして、小児精神科医としての使命感、過去のご自分へのメッセージは心に響きました(涙)。みなさんはいかがでしたか?来月もお楽しみに!

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