ここ数年で社会に浸透しつつある「LGBTQ+」という存在。メディアも急激に取り上げるようになり、イベントも開催されるようになった。しかし一方で、「LGBTQ+」という言葉が独り歩きし始めていて、「正しい理解」が後回しになっているのかもしれない。

今回はLGBTQ+の当事者であり、幼少期に両親からネグレクトされ児童相談所に通っていたこともある広海さんと深海さんにお話を伺った。お二人はバラエティ番組の素人参加企画をきっかけに、ゲイであることを公表し、双子タレントとして活躍していた。現在は芸能界から一歩離れ、広海さんは経営者、深海さんはスタイリストとして活躍している。

「世の中でLGBTQ+を過剰に持ち上げている気がして違和感があるのよね」と語る広海さんに対し「多数派に理解してもらうにはそれも必要じゃない?」と返す深海さん。お二人のように意見をぶつけ合い、そしてお互いに理解を示すことが、多様性の実現のために必要なことなのではないだろうか――。

“正直すぎる”から安心してもらえた。信じてもらえた

画像: “正直すぎる”から安心してもらえた。信じてもらえた
ーLGBTQ +に対する想いのぶつけ合いが、まるでインスタライブを観ているのようでした!本当にいつも通りのお姿を発信されていたのですね(笑)

深海:もちろんそうです。コロナ禍で時間があったから、「何かしようか」ってなった時に、広海ちゃんのパートナーがインスタライブを提案してくれて。せっかくやるなら、嘘をつかず、見栄を張らない、ありのままの自分たちを見せたいなと。

そしたら、それを好きだって言ってくれる人たちがいたの。みんなコロナ禍で寂しかったんだと思います。世界中が混乱していて先が見えなかった時期に、私たちのライブで「またくだらないことで喧嘩してるな」って安心できたとか、「友達が目の前でしゃべっている感覚になれた」とか、気持ちが楽になったと言ってもらえて。

私たちとしては、そんなに好感をもって受け止めてもらえるなんて思ってなかったの。ただ画面越しにみんなとおしゃべりしてるだけの気持ち。見てくれる人を救いたいとか、助けたいなんて崇高な考えは一切なくて。そんなこと思ってたら誰かの悪口なんて言わない(笑)

広海:ありのまま見せすぎ!ってときもあるけどね。投資した額とかね(笑)

でもリアルで友達を作る時も同じで、いつまでも上っ面だけの話をしてたら、本当の友達になんてなれないじゃない?私たちがあまりにもなんでも言うから、見てる人も「この人たちなら自分のことも受け入れてくれる」って思ってもらえるのかな。

ーなるほど。 そういった背景があるからこそ、視聴者からの相談コメントがよく寄せられているのですね。特にどういった相談が多いですか?

広海:視聴者のボリュームゾーンが30代~40代ってこともあって、仕事やキャリアの相談が多いですね。

転職される方とか、一旦子育てが落ち着いてキャリア復帰したい方も結構見てくれていて。「自分はこんなキャリアなんだけど、次はどこにいくのがいい?」とか「こういう経歴なんだけどこれからが不安」とか色々相談してくれます。

でもそれに私たちが全部答えるわけじゃなくて、むしろコメント欄で別の視聴者の方がアドバイスしてくれることが多いんです。

例えば「40歳から看護師になろうと思うんだけど、どうかな?もう遅い??」って質問が来たら「大丈夫、私55歳でなりました!」とか「学校通うのが面倒なら准看からがおすすめですよ」とか。すごくいいなって。

自分の経験を、人に共有することはお互いにとってすごくメリットがあるって思うんです。だから自分たちが、“経験を共有するプラットフォームを作れている”っていうのはとっても嬉しいなって思いますね。


貧乏だったことも、親が居なかったことも、幸せに生きてきたことも全部私たちの真実

画像1: 貧乏だったことも、親が居なかったことも、幸せに生きてきたことも全部私たちの真実
ー同じ日に生まれてから現在まで、多くの時間を一緒に過ごしてきたお二人。お互いのことをどんな存在だと考えていますか?

深海:兄弟だけど友達、家族だけど友達みたいな、近くもあり遠くもあり、そんな関係?

でもお互いに自分にとっての家族はこの人だけ、ってことをいつも感じてる気がします。とんでもないことも言い合うし、口論が絶えないんだけど、絶対に許し合うんだろうなって。

この部分は、兄弟や親子でもなかなか持つことができない特別な繋がりなのかなと思いますね。

広海:双子だからこそ今の関係に?って聞かれるとどうなんだろうとは思います。今は一緒に暮らしてるけど、それは双子だからというよりも、「お互いにお金を稼いで、家が広ければなんとかなるかな」と思ってやってみたら、なんとかなったって感じなの。

だからもし今、すごく狭い家で一緒に暮らしたらとんでもないことになると思います。毎日血まみれの喧嘩になるでしょうね。でもそんなとんでもない喧嘩をしたとしても、結局一緒にいるんだろうなとも思います。

ーやはり強い絆があるのだなと感じます!これまでの経験からさまざまな視点を持っていらっしゃるお二人ですが、今後のご自身のキャリアにどんな目標を掲げていますか?
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広海:僕らは猫が本当に大好きだから、猫の保護活動をサポートできたらなって。あとは地方を盛り上げることにもすっごく興味がありますよ!

仕事で言うと、僕は今の事業がちょっとだけうまくいっていて、大手の企業さんや外資の会社さんともお取引がある状態です。でも、クライアントワークだから、僕の会社の成果だとはあまり思えなくて。僕は広告を作るお仕事をしているけれど、僕たちの会社で作った広告とかが街に貼りだされても、それはクライアントの成果じゃない?だからもっと自分の力で直接的に人のためになることができないかなと思っています。

深海:よくわからないと思うので、私から補足しますね。広海ちゃんって、クライアントさんからお金を預かって広告を作るっていうお仕事。だから広海ちゃんが仕事をするときって、全員に良い顔をするんですよ。だから大噓つきって呼んでるんですけど(笑)

彼の仕事には、クライアントだけじゃなくて、モデルや制作会社も同時に関わることが大半なんです。そうなると、それぞれに立場や思惑がある。普通、広海ちゃんの立場なら誰かに寄り添う形になると思うんです。クライアントの立場に立つのか、モデルの立場に立つのか。でも、広海ちゃんは全員の味方でいたい人なんです。いい意味で嘘つきなのよね。

でもそれって誰も損をしない、とっても素敵なスタイルなんじゃないかなって思います。まだまだそのスタイルを確立できてはいないかもしれないけど、どこにも負けた人、犠牲者を作らないスタイルを完璧に実現することが広海ちゃんの目標なのかなって。

ー「関わる全ての人が損をしない仕事」……経営者として素敵な目標ですね。

深海:対して私は、今のところ仕事の細かい目標はあんまり決めていないの。すごい勝手なことを言いますけど、ちょっとずつちょっとずつ自分勝手に生きてみたいなって思ってます。

広海:もう十分自分勝手よ。

深海:いいから喋らせてちょうだい。外国かぶれで申し訳ないんだけど、日本は“過程を楽しむことができない環境”だと思うんです。例えば一人前の寿司職人になるまで10年かかるとしたら、その10年間の努力はあくまでプロになるまでの過程でしかないなって。

でも海外では、「私は今プロになるためにすっごい頑張ってるの!すごくない?」って感じで、その過程での努力もキャリアに組み込んじゃう。この考え方なら、たとえ努力がすごく厳しいものだったとしても楽しめちゃうなって。

だから、自分自身がブランドを作ったり、新しい仕事を始めることに対する努力はもちろんするんだけど、いかにその過程を楽しんで、自分の人生を豊かにしていくかにフォーカスすることが今の目標かな。これが私のライフスタイルなんだと思います。

広海:自分本位な話ねー、ほんと自由人。僕は世界一周旅行とか行かないし、1ヶ月も休んだりできないし。あなたが自由すぎて、アシスタントさんたち、いつも困ってるわよ!

深海:だから自分勝手に生きていくって言ったでしょ。もっと自分勝手に生きてもいいよって自分のことを受け入れてあげることが、一番自分を頑張らせる方法で、幸せに生きる道だなって思うの。

広海:深海ちゃんは僕より幸福度が高いわよね。たくさん仕事をしてるのも、お金を稼いでるのも僕なんだけど、なんかいつも深海ちゃんの方が幸せそうなの。

深海:それはわかんないわよ。今月はなんかすっごい不幸だわ…って感じることもあるし。まあでも、2人ともそれぞれ幸せに生きているってことじゃない?

私たちは相当な貧乏だったし、親が居なかったのも事実。でも、おばあちゃんとおじいちゃんが愛情をくれたおかげで、子どものころも小さな幸せを感じていたし、今もたくさんの幸せを感じながら生きている。ときどき空に向かって、「ばあちゃん、見てるー?」って思うの。

だから、もし今不幸だって感じている人がいるなら、私たちのことを知ってほしい。

「こんな私たちだって、何とかここまでやってこられた」。この事実が、自分を不幸だって思っている人の気持ちを楽にしてくれたら、すごくすごく嬉しいです。

画像3: 貧乏だったことも、親が居なかったことも、幸せに生きてきたことも全部私たちの真実

画像: <後編>説明を求められない世の中へ――広海・深海のお二人が考える「自分たちが担うべき役割」
広海 HIROMI
マーケティング会社Hi Inc. CEO。 デジタルを軸に、コンテンツ制作やディレクション、コンサルティング、PR施策の考案、キャスティングと幅広いサービスを提供している。

深海 FUKAMI
スタイリスト。 国内外のファッションショーや各メディアなどのスタイリングを始め、アパレルブランドのクリエイティブディレクションやブランドディレクターとしても活躍。

取材・執筆:宮﨑 駿
編集:山口 真央
写真:梶 礼哉

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