誰もが「ちがう」想いや悩みを持って⽣きています。でも、もしかしたら誰かが導き出した答えが、あなたの答えにもなるかもしれません。「根ほり花ほり10アンケート」では、さまざまな業界で活躍する“あの人”に、10の質問を投げかけます。今回は、NHK連続テレビ小説『虎に翼』を手掛けた脚本家・小説家の吉田恵里香さんが登場。
きっと、「みんなちがって、みんなおんなじ」。たくさんの花のタネを、あなたの心にも蒔いてみてくださいね。
吉田恵里香(よしだ・えりか)
主な脚本執筆作に2024年度前期連続テレビ小説『虎に翼』、映画『ヒロイン失格』、ドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』など。ドラマ『恋せぬふたり』で第40回向田邦子賞・第77回文化庁芸術祭優秀賞を受賞。アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』で第9回ATA最優秀脚色賞を受賞。執筆した小説に『にじゅうよんのひとみ』などがある。
①今の仕事に就いた経緯は?仕事のやりがいや楽しみは?

大学一年生の頃、小劇場のお手伝いをしてタダで観劇させてもらっていました。そこで今の事務所のマネージャーさんと出会い、そこからの繋がりで今に至ります。
脚本家になろうと思ってなったわけではなかったですが、学生のうちに物語を作るプロの方々の仕事に触れられたのは良い経験になったと思っています。
その時の出会いが無ければ、恐らく学校の先生をしながら小説のコンクールに応募し続けていたかなと。物語を考えることがとにかく好きなので、苦しいことは時々ありますが基本的に楽しく仕事をしています。
②これまでの自分の人生にキャッチコピーをつけるなら?
「最後には良い方に流れる」
これは自分が執筆したドラマ「虎に翼」にでてくる台詞です。嫌なことや辛いことしんどいことが起きても、幸運なことに今のところ最後には良い方に流れているのかも。運が良いだけかもしれません。でもまぁどうにかなるさという気持ちでいられると自然と強くいられる気がします。
③今までに人生の分かれ道に立ったとき、どう考えてどう決断してきた?
本当に欲しいものかどうか、五年後の自分がこの決断をどう思うかをよく考えます。人の目や評価を気にしてしまいますが、最終的には自分が納得しているかが一番大切です。その結果、良い方にいっても悪い方にいっても「まぁあの時は納得していて自分で決めたんだからな」と思えると、落ち込んでも立ち直りも早い気がします。
④休日明けの朝、仕事に行きたくないと感じることが多いです。そんなときどうしますか?
出来る限り、自分を甘やかします。朝御飯に自分の好きな食べ物やお菓子を食べるとか、好きな作品をみるとか、好きな服を着るとかパックをするとか。それでもダメならば思いきって仕事を休むことも検討します(これはあくまである程度スケジュール調整が利きやすい私の仕事だからできることな気もします)。
煮卵にハマった時は煮卵を朝作って出かけて、帰って食べるのを楽しみにしたりもしました。あとはなぜ行きたくないのかを考えたりもしました。私の場合はホルモンと気圧が大きく関係するので「仕方ない、私の力ではコントロールできないことだ」と割り切って、行きたくない気持ちを受け入れるようにしています。
⑤仕事において、やりたいことや目標がみつかりません。そんな自分はダメでしょうか?
ダメではありません。やりがいや目標が見つかることは素晴らしいことですが、人生の絶対条件ではないです。ただ生きて生活をしているだけで花丸100点満点だと思います。やりたいことや目標がないのに仕事をしている時点で200点満点です。
あとは自分が目標を見つけたいかどうかだと思います。見つけたい気持ちが本当に強いならば、いつか見つかる日もくるかもしれません。改めて言いますが、目標ややりたいことがないことはダメじゃないです。もしそんなことをあなたに言ってくる人がいたならば、その人がダメなだけです。
⑥将来に対して漠然とした不安を感じてしまいます。どんなマインドを持てばいいので しょうか?
私は不安症でずっと将来に不安を感じています。仕事をギューギューにいれてしまうのも不安からくるものです。どんなマインドと言われると難しいのですが、不安な自分を認めるというか諦めると少し楽になります。私は「どう転んでも不安なんだから」と諦めるようにしています。そのうえで漠然とした不安の中で具体化できるものは対処方法を考えます。私の場合は対人関係の不安もよく抱えるので、月並みですが誠実であるとか優しくあるとかできることからコツコツ不安を削っていっています。
⑦時間とお金の使い方のこだわりを教えてください

私は時間もお金の使い方もへたくそです。へたなりに誠実でありたいなとは思っています。
今の絶対条件は子どもと家族の幸せです。これは無駄な時間やお金かもしれないと思っても「まぁ子どもが喜んでくれているからいいか」とか「家族が嬉しそうだからいいか」みたいなマインドを持てると結果自分もご機嫌でいられています。
⑧過去の自分にメッセージを送るなら?
嫌なことは全部、創作のネタになる。だから全部財産になるから安心しろと言います。
すすんで傷ついたり苦しんだりする必要はないですし、若い子にはそんな思いをしてほしくないと思っています。ただ私にはすでについてしまった傷や嫌な思い出があることも事実なので、それを肯定できるメッセージを送ると思います。
⑨将来どんな暮らし、生き方がしたい?
自分のことが嫌いにならないように誠実でありたいです。なるべく良い人でいたいなと思います。母には、なるべく元気に長生きしてもらい親孝行がしたいです。子どもや家族・友人との関係も良好であればいいなと思います。
あとできるだけ健康でバリバリと仕事をしていたいです。仕事をしている自分が好きなので、仕事のオファーがずっと来る自分でいたいです。子どもとの時間は最高で、子ども以上に大事なものはありません。ですが子育てがひと段落したら、やりたいことは山のようにあります。
⑩吉田恵里香さんにとって、「自分らしく働く」とは?
なるべく後悔のない選択をして、全力で作品のことを考えることです。
自分らしさというものは、後からついてくるものだと思っています。私の場合は、自分が納得できないことには抗い、自分が面白いと思うものの強度をあげていくことが、のちのち振り返ると自分らしい作品になっていることが多いです。

吉田さんのご回答の根底には、ご自身への優しい眼差しがあると感じました。自分の弱いところ、嫌いなところをみつけて責めることは一見、自分に厳しいようで簡単でもあり、そこから自分自身の気持ちを立て直すことの方が大変だと私自身は思っています。吉田さんのように、自分への優しさをコツコツと積み重ねた先に「最後には良い方に流れる」と自分を信じてあげられる強さを持てるのかなと思いました。「まずは、自分に優しく」そんな気持ちにさせてくださった吉田さん、ありがとうございました。