唸りながら書き上げた履歴書と職務経歴書を提出したその日に、上司から異動の打診があって笑ってしまった。なんで、私の仕事に対するモチベーションが最底辺になっていることがわかったのだろう。しかも、このタイミングで? 偶然にしてはできすぎているのではないか。やけに都合のいい話だと思った記憶がある。

仕事を辞めたい。そう思ったのは何回目だろう。きっと1000回をゆうに超えている。そして、「会社を辞めたい」と思うたび、その気持ちは少しずつ強くなっている気がする。

今までもずっと複数の転職サイトには登録し続けていたし、カジュアル面談も定期的に受けていた。どこだっていいわけない。できれば、今よりも条件のいい会社で働きたい。自分にも譲れない部分はたくさんあって、すべて当てはまる会社なんて、そう簡単に見つかるはずなんてない。「ここだ!」と思える会社に出会えたら、それは奇跡に近い気がする。けれど、先日話を聞いた会社は、私のやりたいこと・できることとも合っていたし、働きやすそうな環境であるように感じられた。いいな、ここで働いてみたい、と素直に思った。

履歴書と職務経歴書を書いたのも約7年ぶりだった。それなのに、その出鼻はものの2時間でくじかれたのである。

なんで、みんな普通な顔をして働けているんだろう?と思うことがある。私は常に仕事について悩んでいる気がする。今の会社で6年以上働けているのも本当に偶然で、自分でも驚いているくらい、これと言った理由も特にはない。なんとなく続けてきてしまっただけだ。

この業界、向いていないかもしれない。スキルが足りていないのかも。そもそも業務の負担が重すぎる。そろそろ他の会社に行ったほうがいいんじゃないか?今後のキャリアはどうすればいいのだろう?歳ばかり取ってしまって何もかもが手遅れだったらどうしよう?というか、「はたらく」ということや「会社員」という働き方自体向いていないのかも……。これから先、まともに生きていけるんだろうか。未来がとてつもなく怖い。そんなことをグルグル考えはじめてしまうのが真夜中のルーティーンになっていて、眠れないこともあったし気分が沈むこともあった。

そんなタイミングで異動の打診が来たのだから、きっと「会社を辞めるな」ってことなのだと思った。転職を考えていた会社から書類選考に落ちたメールも届き、その気持ちがより強くなっている。何より、ずっと一緒に働き続けてきた上司が「向いていると思うし、やってみてもいいんじゃない?」と言ってくれたのだ。私の仕事に対する姿勢やスキル、性格をもっとも知っている人がそう言っているのだから、挑戦してみてもいいんじゃないだろうか。

異動先は、新設されるポジションでメンバーも私だけらしい。右も左もわからない。なんなら、新しい肩書きは聞き馴染みがなさすぎてググってしまったし、ググったところでよくわからなかった。え、私は一体何をするの?というのが今の状態である。

来月から徐々に業務を引き継いで、夏頃からは完全にジョブチェンジとなる。よくない言い方をすれば、今まで仕事で培ってきたスキルがまったくいきないし、一から自分の働き方を見つめ直さなければいけない。

そんな状態なのだから、不安も大きい。また質の異なる仕事の悩みが増えただけだ。でも、やってみようと思う。今は前向きな気持ちが強い。向いていなかったら、またそのとき新しい道を考えたって、きっと遅くはないのだ。

先日、私よりも一回り年上の女性と一緒に食事をしていたとき、「何か一生懸命やっていれば、必ず誰かが見てくれているし、助けてくれる」という話をしていた。とても精神的で輪郭のない話だったから、ガバガバとビールを飲み続けて泥酔していた私は「そんなものなのかな」と思っていたけれど、私にもそのときが来たのかもしれない。そう考えている。

一生懸命やっていれば、真剣に悩み続けながら試行錯誤を続けていれば、きっと新しい道が見えてくるのだと思う。それは考え方を変えて働き続けることかもしれないし、転職を決断することかもしれない。私にとって、偶然にしてはできすぎているタイミングで異動の話が来ただけで、考え続けていれば、いつか必ずひとつの答えに辿りつけるのだと思う。

「辞めたいな」と思っていたけれど、もうしばらく頑張ってみるつもりだ。私にできるのだろうか。でもきっと大丈夫。前を向いて、またしばらく一生懸命悩み続けながら働いていたい

画像: その道は、一生懸命やったから見えた道 あたそ <第二回>

あたそ
普段は会社員。たまにインターネット上であれこれ文章を書いたりトークイベントを開いたりしている。好きな飲みものは酒。
著書は、『女を忘れるといいぞ』(KADOKAWA)、『孤独も板につきまして 気ままで上々、「ソロ」な日々』(大和出版)がある。


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