人に期待しすぎて働いているからこんなに苦しいんだ、と気づいたのは20代後半だった。
どうしてあの人はあんなこと言うんだろう?やるんだろう?ああやって言ってくれないんだろう?やってくれないんだろう?
そして、その他人への「期待しすぎ」は自分への期待にも返ってくる。
どうしてあんなこと言ってしまったの?やってしまったの?言えなかったの?できなかったの?
けれど8年近く働いてきて、だんだん他人に対しても自分に対しても、やっと「人間、そんなにちゃんとできないよなあ」と思えるようになってきた。
どれだけ気を遣って生きていても、何もかもをしっかり考えて発言できるわけではないし、たとえきちんと考えられたとしても、それを100%理解してもらうことはできない。私たちは、見た目は似通っていても、中身は全然違っている者同士で働いている。
「他人は宇宙人。」そう考えるようになって、仕事をする上での気持ちがものすごく楽になった。おそらく私と同じように、人に気を遣いすぎ、そして人に気遣いされることを求めすぎて疲れている人もいるだろう。特に私が楽になった考え方をいくつか紹介しようと思う。
①他人のことは理解できない(だから決めつけない)
他人のことを理解しようとしすぎると、他人の行動に対して「どうして?」と考えすぎてしまう。そして昔の私はさらに最悪なことに「怒っているのでは?」「あの人に嫌われているのでは」「嫌なことを言ってしまったのでは」と、すぐにネガティブな方向へ深読みしてしまっていた。
しかし、先に述べた「他人は宇宙人」という言葉のとおり、私たちって実は全然違う。だから同じ日本語を使っていたって、100%理解し合うのは難しい。同じ職場というフィルタリングがかけられていてもそうだ。
だから「他人のことは結局わからん」という心構えを持っておこう。考えて考えても、正解は、わからんもんだ。他人が言ったことの真意なんて、説明されない限りわからない。だから、先回りしてあんまり考えないこと。わからないことは聞くこと。これで随分楽になれる。
②やってもらえなくて当たり前・やってもらえてありがたい
これこそ「他人に期待しすぎない」の王道。しかし、期待しすぎないことの裏返しは「やってもらったことに感謝する」だ。
基本、やってもらえなくて当たり前。他人にやってほしいことがあるなら自分からお願いする。他人がやってくれなくても、お願いしていないならそれが当たり前で、淡々と自分が代わりにやればいい。
「問題を解決するのは基本的には自分」と最初から考えておけば、誰かの怠惰に気持ちが揺れることもない。
③人を褒め忘れずに生きていく
②にも関連するのだけれど、他人に期待しないからこそ、人が嬉しいことをしてくれた時には「褒めることを忘れない」ようにしている。「ありがとう!」とか「こういうことをしてくれて本当に助かります!」とか。そうすると、その人が次からも同じようにしてくれることもある。まあ、期待は禁物だけど。
悪いところを指摘するよりも、ありがたいところを褒めるようになってからの方が、周りに良くしてもらっている気がする。
④すべては仕事上の「役割」であり、「人柄」とは分ける
これはつまり「仕事に私情を挟むな」と言い換えることもできるのだけど、仕事においては人に傷つくことを言われても、その人の “人柄” を責めないようにするのも大切だと思う。「あの人はいじわるだ」とか、すぐに人柄に絡めて考えるようになると、自分に対しても「こんなことを言って、意地悪な人だと思われたらどうしよう」と思ってしまうようになるから。
すべては仕事を進めるにあたって必要な発言であり、アクションでありキャラクターである。環境がそう言わせている部分もきっとある。その人自身に問題があるわけじゃない。それは指摘を受けた私にも同じことが言える。自分の人柄やアイデンティティが責められているのではない。役割やアクションの編集を求められているのだ。
プライベートと仕事の間できちんと引いたボーダーラインは、精神も人間関係も健全にする。
深く考えることは大切だけれど、深読みしすぎて勝手に傷ついている時間は無駄でしか無い。一人の頭で大した手がかりもなしに考えられることなんてたかが知れている。本当にわからなくて困ることなら、他人に聞くなどしてコミュニケーションをとって解決する方がいい。これは、無駄に考えすぎて傷ついてきた私だからこそ言いたいことだ。
そして最後に、これはあくまで「仕事場」における考え方だと改めて言っておきたい。
ほとんどはプライベートでも使える考え方なのだけれど、プライベートにおいては、もっとウェットに相手の気持ちを考えたり、人柄の良し悪しを味わったりするのも人間関係の面白さだと思うから。むしろ仕事とプライベートを分けるからこそ、悩まずに健全に問題解決していけるのだと思うのだ。
仕事における悩み事のほとんどは “人間関係” であり、それは大方 “コミュニケーション” の問題だ。だからこそ、「考えを深めること」も大事だけれど「考えすぎなくていいこと」「考えすぎても仕方ないこと」についても真剣に向き合っていくべきだと思う。
りょかち
1992年生まれ。学生時代より各種ウェブメディアで執筆。新卒でIT企業に入社し、アプリやWEBサービスの企画開発・コンテンツマーケティングに従事した後、独立。元『ユートラ編集部』編集長。現在では、コンテンツプランナーとして活動するほか、エッセイ・脚本・コピー執筆も行う。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎刊)、『恋が生まれたこの街で』(KADOKAWA刊)。(183)