大事にしているのは「自分のこだわり」ではなく、「お客さんの喜び」
大山:仲間と一緒に会社を立ち上げて、そこの事業としてぼくの店を構えさせてもらいました。当時はまだ兜町の再開発事業がスタートしていない頃でしたが、そのせいか、街を歩いてみても人が少ないんです。もともとビジネス街だったので、土日になるとさらに人の気配がない。正直、この街は大丈夫なのかな……と不安になりました。
大山:ミシュランの星付きレストランで働いていた経験があるのでわかるんですが、そういう店って、観光の目的地になるじゃないですか。その店を訪れるために、わざわざ遠方から足を運ぶ人がいる。ぼくは、自分の店もそういう場所にしたいと考えていました。有名な観光地にあったからたまたま入ってみた、という感じではなく、街自体は有名じゃないけどそのお菓子屋さんのために行ってみたい、と思ってもらえるような店です。だから、出店場所はどこでも良かった。
どんなエリアに出したとしても、お客さんを呼んでみせると思っていましたし、覚悟もできていました。そんななかで再開発のお話を耳にして、じゃあここにしようと決めました。
大山:ぼくがなにかをした、とは思っていないんです。でも、他のエリアからわざわざ来てくださるお客さんも増えましたし、街全体が賑わっているし、もしかしたら少しは役立てたのかな、と。ただ、あくまでも念頭に置いてきたのは「ease」を盛り上げることです。
大山:当たり前ですが、まずは顧客第一であること。パティシエが自分のために店をやるようになってしまったら、やはり上手くいかなくなってしまう。お菓子を作るときは、お客さんが喜んでくれるかどうかを考えなければいけません。もちろん、自分がやりたいこと、表現したいことというのも大事ではあるんです。ただ、それを突き詰めてしまうとかなりマニアックなケーキができてしまう。それじゃあ、お客さんは喜んでくれません。「ease」はオープンキッチンスタイルなんですが、それもお客さんに喜んでもらうためです。実際にお菓子を作っているところが見えると楽しいじゃないですか。
価格帯についても意識しています。単純に安くすればお客さんが喜ぶという意見もありますが、そうすると利益が出せなくなり、スタッフの給与も下がり、人数は減り、結果的にお菓子のクオリティが下がってしまう。それはつまりお客さんにとっても不幸なので、ある程度の価格帯は維持しています。その代わり、絶対にクオリティは下げず、いつだって美味しいものを提供します。
大山:もちろん、それはありますね。自分だったら100点のお菓子が作れるのに、と思ってしまう。でもそれって、あくまでも自分のこだわりでしかないんです。誰にも気付かれないような微妙な香りの差とか、そういうレベルの話なので。そして、お客さんはそこまで求めていないことも多い。お客さんにとって大切なのは、納得できる価格帯でいつでも美味しいお菓子が手に入ること。だとすれば、ぼくの余計なこだわりは捨てて、みんなが求めるものを最大限提供することが大事だと思う。そのなかで限りなく100点を目指すんですけどね。