稼ぎもキャリアも不安定でいい。人生の自由研究を続けていく

曽根:気になりますよね。日本では、業界の構造的にドラマトゥルクで食べていくのは難しいのが実情です。海外のドラマトゥルクは劇場に所属するのがスタンダード。所属の劇場で上演される作品にアサインされますから、仕事がなくなることはありません。また活動の予算も税金で確保されています。

一方、日本でドラマトゥルクを抱える劇場は、私が知る限りで1つしかありません。そのため生業とする人が少なくて、なかなか認知もされない。今はフリーランスで活動をする人たちが、それぞれに存在意義を広めてニーズを耕している最中なんですよね。

私の仕事もいつ対価が入るか読めないものが多くて波はありますが、稼ぎに関わらず、私のキャリアの中で大事な存在です。

曽根:もちろん怖さはありますし、もし家庭を持つことを具体的に考え始めたらより一層心配になるかもしれないですが……。まあでも、なんとか生きていく方法を自分で探すだろうと思います。

収入面だけではなくキャリアに関しても、私は不安定なほうがいい。安定していないと、心配だから周りをよく見るようになります。その意識を持ち続けていた方が「これおもしろい!」っていう瞬間に出会いやすいなって感覚がすごくあって。

何があるかわからないところに飛び込んでいけるものを選んだ結果、今の生き方ができている気がします。

曽根:楽しいですね。これこそ「自分らしく働き、生きる」だと思います。自分が「おもしろい!」と思える瞬間を発見すること。仕事をしているというより、ずっと夏休みの自由研究をしている感覚です(笑)

会社員の頃は仕事と休みの境目がはっきりしていて、土日にどんなおもしろいことをしようかなと考える生活をしていましたが、今は仕事と休みがあいまいで、「お休みってなんだっけ?」という状態です。そして、仕事同士の境目も曖昧です。こっちの仕事の文献を読んでいたら、あっちの仕事で活かせるおもしろい情報が出てきて……みたいに広がっていくんですよね。

曽根:最近お披露目されたものだと、洗髪がテーマのプロジェクトがあります。人って、髪から美しさや健康状況などを判断することがありますよね。だからこそシャンプーやドライヤーを使って自分らしさを表現している。このワークショップは、銭湯で髪を洗い合ってもらい、「私たちは髪を洗うことでどんなことを表現しているのか」を観察してみようというものです。そこから何が生まれるか全然わからないんだけども、その場に立ち上がってきたものをみんなで観察するということを真剣にやってみたらおもしろいんじゃないかなって。

今後もそうやって何かを発見するための選択を日々していくんだと思います。ドキドキする気持ちを無視しないで、追い続けてみる。きっと今までなかった考え方やものの見方に出会える。その瞬間を逃さず生きていきたいです。

曽根千智(そねちさと)

演出家・ドラマトゥルク・リサーチャー。兵庫県出身。大学卒業後、一般企業で研究開発職として働きながら、こまばアゴラ演劇学校無隣館(3期)で学ぶ。現在は、プログラム・コーディネーターとしてアーティストの創作活動を支援するほか、自身のリサーチプロジェクト(科学技術コミュニケーションと演劇性、当事者性をめぐる演劇の副作用、DIYの実践)を進めている。制作と創作を往復しながら、交わり往来する舞台芸術の周縁を見つめたい。
【photo by Saki Chikai】

取材・執筆:紡もえ
編集:山口真央
写真:梶 礼哉