太古の昔、インダス文明の頃から、哲学や医学、宗教学などさまざまな分野の学問を独自に発展させてきたインド。中でも、医学でありながら人の生き方や哲学も説き、幸福論にも近い体系を築いてきたのが「アーユルヴェーダ」である。そんな深遠な学問を極めんとスリランカでの修行を経て、現在、自身のサロンや著書、講演などでアーユルヴェーダの実践的な生き方を広める女性が、アカリ・リッピーさんだ。
以前は外見に対するコンプレックスから、“美”に対する強い憧れがあったというアカリさん。自分に自信を持つために試行錯誤を繰り返し、最後にたどり着いたアーユルヴェーダの思想が教えてくれたのは、何よりも「自分を知ること」だったという。
「今の私がいちばん好き」と語るアカリさんの言葉には、「自分らしさ」に悩む現代人にとって、道標のようなヒントが詰まっていた。
アーユルヴェーダとはインド古来の「医学」。その範囲は生き方やマインドにも及ぶ
アカリ:おっしゃるとおり、「アーユルヴェーダ」という言葉を聞いたことがあっても、エステやオイルマッサージをイメージされる方が多いと思います。でも、それはほんの一部なんですよ。実際はかなり広い範囲に及ぶ思想で、広く「伝統医学と人生哲学が融合した学問」と捉えていただくといいかなと思います。
アーユルヴェーダには、病気に対する“西洋医学的ではない”治療法もありますし、予防医学的な知恵もたくさん存在します。
実は、皆さんの日常にもアーユルヴェーダは取り入れられていて、例えば「朝に白湯を飲む」という習慣。あれは数千年前からある消化力を上げて代謝を上げるためのアーユルヴェーダ的習慣ですし、少し前に流行ったオートファジーなどのプチ断食なんかも、元をたどればアーユルヴェーダの健康法だったりします。
アカリ:そうですね。アジアの伝統医学として古くからほかの医学や健康法にも影響を与えてきた部分がありますから、みなさんの生活にアーユルヴェーダのエッセンスが取り入れられているのだと思います。
日本では、まだ「アーユルヴェーダ=医学」という認識が浸透していませんが、インドやスリランカでは、病気や身体の不調があるときに「西洋医学」と「アーユルヴェーダ」、どちらの病院に行くか選べますし、世界を見渡すとアーユルヴェーダの治療において保険が適用される国も少なくありません。例えばドイツがその一例です。
ただ、おそらくみなさんが思い浮かべる「医療」と少し違うのは、アーユルヴェーダでは「肉体的な不調や病気の原因は、精神にある」という考え方が根本にあること。例えば、ストレスによる腹痛などはその代表例ですが、それ以外にも食べ過ぎやアルコール依存症なども、「精神の乱れによって、病気の原因となる行動を起こしている」と捉えます。
医学でありながら、哲学や道徳といった範囲も含めた「精神的な領域」にも積極的に踏み込んでいくのがアーユルヴェーダ的なアプローチなんです。