私が自由に進むことで、ダンサーたちの未来が広がることを願って

飯島:30代になって、支え合うことの大切さをすごく実感しているんです。

バレエの世界って個人競技、己との戦い……というイメージが強いんじゃないかと思いますが、私個人としては「みんなでひとつの作品を作るからには、みんながハッピーじゃないと」と考えています。私ひとりがハッピーになるより、みんながよりよく過ごせるようにしたい。

飯島:バレエダンサーがもっと活躍できる環境を日本で作りたいです。

日本は海外に比べてバレエダンサーが生計を立てにくい環境だと感じます。海外では会社員と同じように職業組合があったり、ケガをして休業する時も手厚い保障を受けられたり、安心してバレエに集中できる土壌ができている。一方で日本のバレエダンサーは、所属してる団体にもよると思いますが、フリーランスとして個人に委ねられる部分が多くて、職業として不安定な一面があります。

今私にできることは、バレエをもっと多くの人に楽しんでもらえるように活動していくこと。そして将来、私が引退する頃には、ダンサーひとりひとりがバレエだけで生活しているような世界になっていたら良いなと思います。そのために私もバレエ界以外の方々と繋がったり、色んな人がバレエ界を盛り上げてくれるようなきっかけづくりをしたりできたらいいなと。 そういう形でバレエ界に貢献していきたいです。できれば指導者以外で。

飯島:私も毎日学ぶことばかりで、人に教えるということに対して歯痒い感じがあります。自分の思いや感じていることを上手く言語化することが苦手ですし……。

今の日本のバレエ界では、現役生活が終わったら指導者に転向する方が比較的多く、それ以外の道って想像しづらいんです。結婚したり子育てしたり、プライベートの変化がある中でどう両立するかなど、私も色々と模索していきたい。私に出来ることや、私の新しい挑戦が、今後のバレエダンサーのロールモデルの一例になればいいなと思っています。

バレエダンサーとして、ひとりの人間として人生を豊かにしていきたい。どんな経験も私らしい表現につながっていく。そう思って自由に選びとった道が、今後のダンサーの選択肢を広げることにつながれば嬉しいです。

▲取材後、SNSにて結婚と第一子懐妊を報告した飯島さん。これからも自分で自分の人生を選び取り、表現していく彼女から目が離せない

飯島望未

K-BALLETTOKYOプリンシパル。大阪府生まれ。6歳よりバレエを始める。2007年ヒューストン・バレエの研修生、08年当時最年少16歳でアーティストとして入団。19年プリンシパル昇格。21年5月現K-BALLET TOKYOの『ドン・キホーテ』にゲスト主演。8月プリンシパル・ソリストとして入団。22年3月プリンシパルに昇格。入団後は多くの熊川哲也演出・振付作品で主演を務めている。活動はバレエだけにとどまらず、ファッションモデルや19年から24年までCHANELのビューティアンバサダーとしても活躍。

執筆:紡もえ 撮影:宮崎隼