テレビから流れる経済情報への危機感から、自分にできることを探した
田内:ゴールドマン・サックスで働きながら、世の中に蔓延る問題が目につくようになったんです。たとえば、テレビ番組に出演する経済評論家のコメントが、しばしば間違っていたりする。2010年にギリシャが財政破綻したとき、「次は日本が破綻する」なんて公言する経済評論家もいたのですが、ぼくの見解はだいぶ異なっていたんですよ。実際にお会いして疑問をぶつけてみても、まともな反論は返ってこない。そんな人たちがテレビを通して「経済とはなにか」を語っているなんて、危機的状況だと思いました。
そういったことが重なるうちに、「誰かが間違いをちゃんと指摘しないといけない」と強く感じるようになっていきました。ただ、イチ会社員でしかないぼくにできることは限られている……。悶々としているときに、知人に「無理かもしれないけど、正しいお金の知識について知ってもらうための本が書きたい」と話してみたんです。そうして紹介されたのが、あの佐渡島庸平さん※でした。
※元講談社・週刊モーニング編集。『バガボンド』『働きマン』『宇宙兄弟』等ヒット作を担当
田内:そうなんです。初対面のとき、経済業界に対して抱いている危機感についてお話ししたら、こんな言葉が返ってきました。
「正直、田内さんの言っていることを理解しきれていない。でも、わからないってことは複雑ということだから、それをうまく言語化できたら面白いと思う。そして、言語化した内容が正しいものであれば、日本のトップ……首相にも届くよ。それが本を書くってことだから」
その言葉で本を書く楽しさを知って、ワクワクしました。だったらやってみたい。それで佐渡島さんのもとで修行させてもらうことになったんです。
田内:最初、佐渡島さんからは、「社会に対して伝えたいことがあるなら、ブログやSNSで連載すればいいんじゃないか」とアドバイスされました。ある程度の分量になったら、電子書籍にもできるから、と。
そこで早速、みんなが興味を持ってくれそうな経済の話をブログで書き始め、5、6本記事が溜まったときに、「これは紙の書籍にもなりそうだよ」と評価されて、ダイヤモンド社の編集者につないでいただくことができました。
田内:あまりにも緊張して死にそうでした……。ぼくはまだ40代の、経済界でいえば若造です。そんなぼくが、政界の方々の前でお話しする。しかも安倍元首相も同席されていると(笑)
でも、佐渡島さんの「首相にも届く」という言葉通りになったことに驚き、感動しました。これが活字、つまり本の力なのか、と。