Twitter(現X)での大ブレイクから「書く仕事」のキャリアを切り拓き、近年は作家・脚本家としても活躍する夏生さえりさん。「働くことは自分の可能性を広げてくれる」と、やわらかく微笑む。30歳で子どもを産んでからは、仕事の密度もぐっと高まったのだという。彼女が心からそう思えるような仕事や働き方、そしてともに働く仲間を得るまでには、どんな道のりがあったのだろうか。

「フリーランスだから」「母だから」……などの枕詞があっても、やりたいことを何ひとつあきらめないためのヒントを、彼女の話から探っていく。


新たな挑戦と成長を続けられる働き方がしたかった

夏生:大学を卒業して、はじめは学習参考書などを制作する出版社に就職しました。一般書部門を立ち上げる部署に配属されたのですが、なかなか楽しいと思える仕事ができず、悩んだ末に退職。一年足らずの在籍だったため、周りには「我慢が足りないんじゃない?」「履歴書に傷がつくよ」などと、ずいぶん心配されました。

私自身も銀行員だった父の姿を見ていて、仕事とは「生きるためにするもの」「楽しくなくても責任を負うもの」といったイメージがあったのは事実。だけど、どこかにそうじゃない働き方があったらうれしいな……という思いもあって、転職を決めました。

そのあとは、Web制作会社に入社。編集者として、クライアントのメディアを運用するお仕事をしながら自社ブログの企画・執筆をしたり、ブログやTwitterを頑張ったりしていたら、個人でお仕事のご依頼をいただくようになりました。そのうちにせっかくのチャンスをひとつも断りたくないと感じはじめ、26歳でフリーランスになったんです。

夏生:うまくいかなかったらどうしようとは思っていましたよ。でも、逆に楽しいかもしれない、という気持ちもありました。それはやってみなければ分からないし、何年か経ったあと過去の自分を振り返ったときに「大丈夫だったな」と言えたらいいなって。「うまくいかなければいつでも会社員に戻ろう」という気持ちでの決断でしたが、おかげさまで楽しく働き続けられていて、今年でフリーランス8年目となりました。

夏生:確かにフリーランスになって3年ほどは、そうした恋愛系の案件が中心でした。ただ、ご依頼をいただけることはとてもありがたい反面、もともと自分がやれる能力範囲のお仕事しかできていない気がしてきて……。企業とのコラボプロジェクトなども増え、客観的にはちゃんと前進している時期のように見えたかもしれません。

でも、もともとそんなに自信があるほうではないので、原稿を書き終わっても、達成感や納得感があまり得られず……。そのうえ、お送りした原稿に「ありがとうございました!おもしろかったです!」の返答だけで終わってしまうことが続くと、「本当に、良い仕事ができていたのだろうか?」と疑問に思うことも増えました。成長している手ごたえもなく「本当はもっと改善できる部分があるんじゃない?」「このままじゃスキルの切り売りになってしまうかも」と、ほのかな不安が芽生えてきた。恋愛というジャンルで自分がずっと書き続けられるとも思えなかったし、もっと新しいことにチャレンジしたい、もっとスキルを得たい、という気持ちがあったんです。

夏生:自分のそんな状況を周りに打ち明けるようにしていたら、ある人から「会社に遊びに来ない?」と声をかけられたんです。さまざまなバックグラウンドの人を集め、お互いのジャンルを越境しながら面白いエンターテインメントを生み出していこうとする会社でした。そして「業務委託でお仕事をしませんか」と誘っていただいたんです。

「恋愛絡みじゃないお仕事を増やしたいんですが……」と相談したら「まったく問題ないです。恋愛じゃない仕事、やりましょう!」と快諾していただき、すごくうれしかったですね。そのうえ「いま生活のために受けている仕事は何パーセントありますか?その割合をうちに預けて、自分が本当にやりたいと思える仕事だけ、個人で受けてください」と言ってくださったんです。

夏生:そうなんです。ちょうど、ひとりで活動していくことから脱却したいと思っていた時期でもありました。「チームにも所属するフリーランス」という形は私にすごく合っていたし、以降はとてもバランスよく働けるようになっていき、現在も所属を続けています。誰も妥協しないので、自分が出した提案に対してチームのみんなが真剣に意見してくれるのはうれしいし、大きな刺激ももらえますね。切磋琢磨できるメンバーと働くことって、最高です!