食事や健康に関する情報が溢れる現代。TVを始めとするメディア、雑誌、YouTube等からさまざまな情報が得られるものの、だからこそ「何が自分にとってベストなのか」を選択するのはとても難しいのではないだろうか。そして忙しい毎日の中で、これではダメだと思いつつ、「忙しい」「面倒」「ダイエット」などの理由で、食事を抜いたり疎かにしたりする人も多いだろう。

しかし、少しの知識とスキルを身に付けるだけで、身体も心も喜ぶ、自分にとってベストな食生活が得られるとしたら、どうだろうか?

「手を抜いてもいい。ラクしてもいい。けれど、自分の身体とは一生付き合っていくわけだから、『身体が喜ぶ食事』をしてほしいんです」

そう話すのは、料理家で一般社団法人日本フードドクター食医学協会(JFDA)代表理事の坂部幸さん。恵比寿で自らが手掛ける料理教室「PODERHYSH KITCHEN(ポデリッシュキッチン)」を開き、20年以上に亘って「食の大切さ」を教え続けている。そんな坂部さんに「なぜ食を通じて自分の身体と向き合う必要があるのか」を聞いた。


私の長所は「食で人を幸せにできる」こと

坂部:料理の世界って、男性社会だったんです。今は女性のシェフも活躍していますが、当時は男尊女卑の考えも根強くて女性だと任せてもらえないポジションも多かった。早朝から深夜まで、窓のない部屋で14時間以上も緊迫した環境で仕込みをしているのが辛い……。「いつやめようか」と、常に考えていましたね。

それでも私自身、料理が心から好きでした。各店舗での勤務は修行のつもりだったから、とにかく耐えて、とにかく腕を磨いて……。ゆくゆくは自分のお店を持つかもしれないとも考えていました。だから、レストランで学んだことを忘れないようにと休日に料理教室を始めたんです。

坂部:次第に、休日が楽しみになっている自分に気づきました。「次のレッスンではあの料理を作ろう」「あの生徒さんにはこの料理を教えてあげたい」……。こんなことを考えるのがすごく楽しくなっていました。

それに、生徒さんに恵まれたことも大きかった。私の料理教室「PODERHYSHKITCHEN」(以下、一部「教室」と表記)は、今もほとんど広告を打っていない、生徒さんのクチコミによって広がっている料理教室です。教室で食を変えることで自分の身体も心も変わっていくことを実感した生徒さんが、素敵な人を連れてきてくれる。そして私もその生徒さんのことが大好きになる。一度でも関わってくださった方は、私にとってとても大切な方です。

そんな経緯があり、15年ほど前からはシェフとしてではなく教室に軸を据えてやっていくことに決めました。料理のプロとして経験を積んだ日々を活かすこともできるなと。それから20年以上経ちましたが、教室を始めてからは、「明日も仕事か」「嫌だな」と思ったことが1度もないんですよ。

坂部:現在「PODERHYSH KITCHEN」には2つのコースがあります。

ひとつは教室の主軸となっている「フードドクターコース」。これは私が理事長を務める一般社団法人日本フードドクター食医学協会の認定資格、フードドクターを目指すコースです。食医学の観点から体質改善を目指し、20名以上の専門医が監修したテーマに合わせたレシピを3品ずつ学んでいくコース。ここでは旬の食材や身近な食材の栄養素の活かし方、相性の良い食材の組み合わせなど、日常生活ですぐに実践できる知識とスキルを学んでいただいています。より深くお料理を学びたい中~上級者の方はもちろん、医師をはじめ、ハイキャリアの方の受講も多いです。

▲オートミールとホタルイカのリゾッㇳなど、3品で432kcal。テーマに合わせた栄養素を学び、野菜をベースに高タンパク低脂質なメニューを習うことができる

もうひとつが「お料理完全マスターコース」。こちらはお米のとぎ方、出汁の取り方などの料理の基本のキから学んでいただく“入門編”のようなクラスです。計量から仕上げまでを少人数制で行うクラスで、最終的には約60品のレシピが身に付きます。これまでほとんど料理をしてこなかった方や、ご結婚を期に「パートナーにおいしいごはんを食べてほしい」と門を叩いてくださる方もいます。

坂部:フードドクタークラスで一番多いのは、「身体が変わってきた」という声でしょうか。「お通じが改善して身体が軽い!」という体調改善や、周りから「『最近すごく綺麗になったけどなんで?』と聞かれた」とか、食生活を変えたことで身体が変わっていくことに気づいてくださるととても嬉しいです。

お料理マスターコース受講の生徒さんだと、「こんなに簡単にプロの味が自宅でつくれるなんて感動した」と言っていただけますね。料理が苦手で苦痛で……とおっしゃっていたママから、「子どもが初めておかわりしてくれたんです!」といったご報告をいただくと、こちらまで幸せな気持ちになります。

私の長所は「食で人を幸せにできること」だと思っています。身体が変わってきたと喜ぶ姿や、料理を一口食べた瞬間にこぼれ出る笑顔を、ずっと大切にしたいと思うからこの仕事を続けているんです。