「寄り目」を披露し、オーディションに合格する
※「情報保障」とは、さまざまな理由で情報を得ることが困難な人に対し、代替手段を用いて情報を提供すること
津田:そうかもしれません。ただ、相手の方も私の耳のことを理解した状態で会ってくれるので、とてもわかりやすく話そうとしてくださる方が多いです。それでもわからない場合はマネージャーが口の形を見せて通訳してくれたり、スタッフさんが紙に書いてくれたりと、コミュニケーション面ではみなさん工夫をしてくださっている印象があります。
津田:初めてのお仕事は『週刊朝日』の表紙モデルです。1000人以上の中からたった10人しか選ばれない厳しいオーディションでした。自己紹介しながら特技を披露しなければいけなくて、参加者はバレエや歌や体操などでアピールしていたんですが、私は何も特技がなくて……。どうしよう、と考えていたら自分の番が来てしまって、そこで披露したのが「寄り目」でした(笑)。でも、審査員の方々が爆笑してくださって、その場の空気が和んだことを覚えています。私もリラックスできて、そこからは自分らしく受け答えもできました。結果、見事合格したんです。
津田:とてもびっくりしました。綺麗で魅力的な女性が沢山いる中から選ばれて、「私でいいの?」って。でも同時に、「私ならできるはず!頑張ろう!」と燃えました。
表紙を飾った雑誌が発売されると、両親はすごく喜んでくれましたし、友人からも「買ったよ!」と連絡が来たりして、周りの反応が嬉しかった。反面、まだ学生だったので、突然学校のなかで有名人になってしまい、戸惑う瞬間もありました。
たとえば、あまり親しくない同級生から写真撮影やサインを求められたことです。自分の中では何も変わっていないのに、周囲からの目が変わってしまった。それがつらくて、誰にも見つからない場所でひとり泣いていたこともあります。有名になりたくて俳優になったわけじゃないのに、って。
津田:そうですね。そもそも、デビューしてからはしんどいことの連続でした。私は何も支度しないまま俳優の世界に飛び込んでしまったので、何もかもわからないことだらけだったんです。気持ちの作り方も動き方も、表情も、自分のなかでは「できている」と思っていることが相手にはまったく伝わっていなくて、どうすればいいんだろう……と落ち込みました。特に難しかったのは、やはり演技のお仕事です。
初めての長編映画では、撮影シーンの順番に戸惑いました。映像作品って、物語の冒頭から順番に撮っていくわけではないんですよ。その作品では、エンディングシーンから撮影が始まったのですごく驚きましたし、気持ちがついていかなくて。とにかく緊張が勝っていたように記憶しています。
津田:ありましたね。監督から求められていることがどうしてもできなくて、いますぐ逃げだしたい……と心が折れそうになったんです。でも、じっくりお話ししていただいたり、ひとりで考える時間をくださったりして、なんとか乗り越えてきました。特に印象に残っているのは、『小さき神の作りし子ら』という舞台に立たせていただいた時のこと。表現の仕方を一から学ばせていただいた経験です。思うようにできなくて落ち込んでいたときに、「できるよ。できるからここにいるんだよ。僕は君を選んだんだから、自分を信じて」と演出家さんから言っていただけて、その言葉がスッと心に入りました。
「私はここにいる。選んでいただいて、この役を与えていただいたんだ。自分にしかできない役をやり切ろう」 そう思えたら色々できるようになったんです。苦しくても立ち上がり、やり切った後はいつでも「やって良かった」という気持ちしか残りません。どんなに辛くても、私はいつも「またやりたい」って思うんです。それが続けていられる理由の一つだと思います。