フィクションのために、一般的な幸せは捨ててきた
戸田:すべてを持つことは難しいですから。私は本当に好きなもののために、持てないと思うものはどんどん捨てました。例えば結婚や出産。私が若い頃は「女の子はお嫁に行け」って時代だったから、しないと決めたのは大きな選択だったと思います。後悔がないことはないし、惜しくなるかもしれないとも思った。でも、目の前にある可能性の全てを追いかけても、ひとつもモノにならないわと。だから振り向かない覚悟をして、捨てるの。いいじゃない。本当に大好きなものが残れば。
戸田:私にとって、1位以外のものなんてないんです。順位をつけたこともない。字幕、そしてフィクションという太い幹だけ。枝葉のことは考えないようにした。私はフィクションが好きなの。一人の人間が生涯において体験できることなんて限られている。でもフィクションなら、本来できないことができる。知らないことを知れる。想像力で遊ぶことが楽しいのよ。本しかなかった時代から映画に出会い今に至るまで、そこは繋がっていると思います。
戸田:それだけ好きだからよ。人間のモチベーションを動かす一番大きなものって「好き」っていう気持ちじゃない?私は人の言葉に心が揺らいだことはないです。子どもの時から我が道を行くタイプで、母にも相談したことがないのよ。母は不安だったでしょうね。英語教育を受けていない世代ですし、字幕というもの自体がよくわからない。20代の頃にはその時代らしく「お嫁に行け」って散々言われましたよ。
でもそのうちに母も諦めていましたね。晩年は私と旅行三昧で、「あなたがお嫁に行かなくて良かった」とまで言ってくれた。……ほら言ったじゃない!って感じですよ。