心が折れそうなときは、原点を思い出して

河村:「アメリカ人は言いたいことをはっきり言う」というイメージがあるかもしれませんが、ブロードウェイの世界は意外にも日本社会的で、「誰が言うべきか」という線引きや、「口を挟むべきではない場面」がはっきりしています。演劇業界では「私の仕事はここ、あなたの仕事はここまで」というように、自分のレーンを大事にするんです。もちろん求められれば自分の意見を言いますが、垣根は越えない。そのバランスが難しくて……。

河村:そうですね。私もそのあたりは感覚的に理解できたので、自分のできること、自分のやるべきことを粛々とこなしていきました。

印象的だったのは、咳をしている人に水を渡すような気遣いがすごく評価されたことです。「優しい」「いい人間である」ことがこの業界では重要視される。そのため、トップで活躍される人たちも本当にいい人が多い。ハリウッドスターの間でも「舞台出身者ほど謙虚な人たちはいない」とよく言われているんですよ。

河村:負の感情はループになりがちなので、ポジティブな方向を見つけることを日々意識しています。それでも心が折れた時は「なんでこれをやっているのか」「なんで好きなのか」という原点に立ち返るために、ブロードウェイのショーを観に行きます。自分のやりたいことを思い出せますから。

あと、夜更かししないようにすること。仕事柄、不規則な生活になりがちです。でも、ビジネス書を読むとやっぱりルーティンは大事だと気づいて。だから朝は決まった時間に起きて、朝ごはんをちゃんと食べる。なにげないことですが、意識して行動しています。

河村:夜更かしをしてしまう原因を考えてみたら、それが「恐怖心」から来ていることに気づきました。抱えているタスクに対して「今日中に終わらせなきゃ」という恐怖心です。でも、とりあえず夜遅くなったらその恐怖心を手放して、早く寝て朝早く起きるほうが、結果的には効率がいい。体と心はつながっているので、この業界で続けていくために体を大事にすることは強く意識しています。

河村:もともとは、すっごく根暗でシャイですよ(笑)。ポジティブになれたのも、英語のおかげです。これまでの人生を振り返ると、英語でかけてもらったたくさんの言葉が、どれもこれもオープンマインドで刺激的だった。誰かが私のことを「こんなにポジティブに捉えてくれるんだ」「こんなにCelebrate(称賛)してくれるんだ」という喜びは、英語や、英語で関わってくれた人たちが与えてくれたものでした。

もちろん、今でもなかなか手放せない恐怖心はあって、例えば「一度休んだら逃げ出したくなってしまうんじゃないか、戻れなくなるんじゃないか」と不安にかられることもあります。でもそんなときにも「休んだほうがいいよ」「休んでいろいろなものを見てみたら?」って声をかけてくれる人がいる。すごくオープンマインドだし、ポジティブで心地がいいんです。

河村:ブロードウェイで活躍するサウンドデザイナーのヒロ・イイダさんから「自分に小さな負荷を毎日かけ続ける」という言葉をいただいたのですが、これにはすごく影響を受けました。

彼は忙しい中でも1日1個新しい音をつくってみるといったことを続け、今につながっているそう。私も大きな仕事がない時でも、自分で作品を生み出していくことを心がけています。お金になるわけじゃないけど、見てくれている人はいるし、最初はしんどくても続けるうちにだんだんと努力も苦じゃなくなりますから。筋トレと一緒ですね。