会社役員の経験を経て、パラレルワーカーとして活躍する世永亜実(よなが あみ)さん。前編ではこれまでのキャリアを振り返り、本来の自分とのギャップを感じながらも、周囲から期待される高いハードルを一生懸命に飛び続けてきた日々を語っていただいた。続く後編では、コンプレックスや弱さとの向き合い方、後進への想いに触れていく。
「私のこの揺れる気持ちが、誰かのヒントになれば――」
そう願う世永さんから、“働き・生きる”私たちへの、温かいエールを贈る。
世永亜実
株式会社GOOD NEWS取締役
オイシックス・ラ・大地 株式会社 Brand Director/People's Adviser
大学卒業後、芸能プロダクション (株)アミューズ入社 レコードプロモーターを経験後2002年(株)サマンサタバサジャパンリミテッド入社、PRチームを立ち上げ、PRマーケティング領域の担当役員として数々のプロモーションを手掛ける。2019年に独立。様々な企業でのブランディングやマーケティングを行いパラレルワーカーとして新しい働き方を模索中。女性役員として多くのスタッフの育成にも携わった経験を基に、マネジメントの本も出版。 高校三年生の長男、中学二年生の娘を育てる2児の母。著書:『働く女性のやる気スイッチ 持てる力を120%引き出す並走型マネジメント』
子育てと仕事。細い道でも、途切れさせなくてよかった
世永:もしそうなら嬉しいです。自分をロールモデルとして欲しいわけではないけど、年齢を重ねた私が少し先にいることで安心してくれたらいいなと思います。
よく仕事と子育ての両立について聞かれますが、私自身そのふたつを上手に両立できているとは思っていないし、もう毎日ぐちゃぐちゃです(笑)。でも両立できている存在として見えることで安心してもらえるなら、それが私の役目なのかなと受け止めています。
幼い頃から感じていたように、自分が捉えている私と、周囲が捉えている私の間にはギャップがあります。私はそれがずっとコンプレックスでしたが、最近は「無理にギャップを埋めなくてもいいし、自分ではダメだと思うところも、良いと言ってくれる人がいるならそのままでいいか」と思える
ようになってきました。
世永:克服するんじゃなくて、認めてあげることが大切なのかなって。
例えば私の他のコンプレックスを挙げると、ゼロから何かを作るのが苦手です。自分で目標を生み出そうとすると強いストレスを感じます。でも、誰かが生んだ種を育てることはできる。本人が「こんな花が咲くと思わなかった!」と感動するくらいに育てたいと思える。コンプレックスがあっても、それに負けないくらい素敵なところを、みんなきっと持っているはずなので、それを探してほしいです。
私は、この世に人があふれているのは得意不得意を補い合うためだと思っています。得意な誰かの力を借りることでパフォーマンスが上がることを実感できたら、自分もそうありたいと思うし、自分のことを必要以上に責めなくてよくなるかもしれません。
悩むのは当たり前、うまくいかなくて当たり前。ふと目にする成功事例は結果論だと思います。そこばかり見ていると、みんな自分がダメだと思ってしまうけど、成功しているように見えても、本当は悩んでいることもあるし、ドロドロにつらい日だってある。だから自分も今のままで大丈夫と思うと気が楽になると思います。
▲「仕事で嫌なことがあると、ひたすら揚げ物をします!」と笑う世永さん。料理の時間は世永さんにとって一番の気分転換だそう。
世永:一生懸命の先の楽しさを知っているからです。経験を積むと、7割くらいの力でも、与えられた仕事をゴールまで持っていけちゃうことがあります。でも、ゴールテープを切った時の気持ちや、得られるものは、一生懸命やり切った時とは全然違います。
サマンサタバサを離れるとき、実は「子どもたちとの時間を増やしたいし、週2回働くくらいがいいな、仕事を全部辞めてもいいかも」と思っていました。でも仕事に制限をかける状態では、私の人生はそんなに豊かにならなかった。自分が真剣になりきれないことがつらかったです。
頑張った先に絶対いい景色があると知っているから、どうせ仕事するなら一生懸命やりたいし、一緒に仕事する人にもその景色を見てほしいと思う。
子育てと仕事をどちらも続けて、途中で細い道になることもあったけれど、途切れさせなかったことが今の自分に繋がっています。子どもたちが成長して「尊敬」という感情を知り、仕事に一生懸命な私に対して、その感情を向けてくれるのを感じます。頑張っていた意味はここにあったんだなと、幸せをかみしめています。
迷いながら歳を重ねることが、明日の誰かの勇気になれば
世永:変わらず一生懸命やっていきたいですが、体力も落ちてきているし、経験や年齢を重ねていくと、時に若手のみんなに気を遣わせてしまうこともある。いるべき場所もすべきことも変わっていきますよね。キャリアって、きっと最後は誰でも静かに縮小して終わっていくものだと思っていて、それを受け入れる気持ちと、まだまだできると信じる気持ちの間で、正直揺れています。
でも誰もが歳を重ねていくから、今私がこの揺れる気持ちを経験して発信することが、誰かの気持ちを楽にするヒントになればいいなと思っています。
相談されたり、取材されたり、何かを依頼されたり、その積み重ねが「私は必要とされているんだ」という安心になって、不安をひとつひとつひっくり返してくれていますね。
世永:「一緒に働けて嬉しい」って言ってもらえる時かな。
サマンサタバサにいたころは、こんな環境は他の場所では作れないだろうと思っていました。でも勇気を出して外に飛び出してみたら、それぞれの場所で仲間がどんどん増えていった。どんな場所でも、チームって作れるんだと実感できたことがとても幸せです。
ひとりじゃなにもできない、苦手なことのほうが圧倒的に多い。でも、みんなに「頑張って!」って持ち上げてもらって仕事ができているから、私もそれをみんなに返していきたいと思う毎日です。
世永:同じ時代に働く皆さんに、明日を生きるための勇気やヒントを届けられたら嬉しいです。
それに加えて「人生の最後は、もっと広く誰かの役に立てる仕事がしたい」という思いが強まってきました。今仕事をしているオイシックスは、「食に関する社会課題をビジネスの手法で解決する」というビジョンを掲げて、食を通してそれを着実に進めているし、社員みんなが同じ気持ちで働いています。
私が取締役を務めるGOOD NEWSも、未活用食材を利活用したお菓子にして世の中に届けています。それもすべて、社会や未来に繋がる仕事だと感じています。
一緒に働く人、この社会で共に生きる人、そして未来を生きる人。私が働き生きることが、そんな誰かの明日に繋がればとても幸せに思います。
執筆:紡 もえ 撮影:梶 礼哉