壁があっても『あしらせ』と越えられる。人生の可能性を広げるきっかけに

千野:本当にそう思います。ユーザーコミュニティに当事者の西川さんがいることは、参加者の方にとって大きな安心になっていると感じますね。

開発側として特に助けられているのは、UI(ユーザーインターフェース)。ユーザーの方が触れる部分をどう使いやすくするかの視点です。見え方は当事者の方の中でもそれぞれなので、例えば西川さんの見え方で使いやすくても、別の方にとっては使いにくいというのは当然起こり得るんです。けれど西川さんは、患者会などでいろいろな症状を持つ方と接してきた経験があるので、複数の角度からみてくれている。「困ったら西川さん」が社内では共通認識になっています。

千野:そうなんです。2年ほどかけてひたすらアップデートを重ねました。UI改善は本当に終わりなき戦いです。西川さんが入る前はチーム全員が健常者だったので、ユーザーである当事者の方に使っていただいて、フィードバックをもらって、修正して……の繰り返し。健常者目線ではすんなり理解できないことも多く、かなりもどかしかったです。今は西川さんがそこをリードしてくれて、ユーザーの方々が本当に求めている機能をスピード感をもって追求できています。

西川:嬉しいですね。今とても「自分らしく貢献できる」という実感が持てています。今日の取材のようなカスタマーサクセス以外の仕事に挑戦できることも本当にありがたいです。障害のある方の多くは、仕事での自己実現が難しい環境に置かれているのが現状だと感じているので。

そもそも就労率がとても低いですし、転職も難しい。スキルアップとしての転職は、あまり聞かないです。見えづらくなって今の仕事ができないから転職せざるをえないとか、選択肢のない中で転職する方が多いように思いますね。

西川:自己肯定感が下がりやすい環境で生きることの苦しさに、当事者のひとりとして共感しています。できなくなっていく恐怖や不安、将来への不安。そういった気持ちを抱える方々にとって、小さな光となり得るのが『あしらせ』だと思います。

「行きたい場所に行く」。普段なら高いハードルかもしれないけれど、『あしらせ』があればそれをきっと越えられる。それで見えてくる光があると思っています。僕たちのミッションは、「人の豊かさを”歩く”で創る」。ひとりで歩くことができた、それが当事者の方の人生が広がるきっかけになれば、心から嬉しいです。