誰もが「ちがう」想いや悩みを持って⽣きています。でも、もしかしたら誰かが導き出した答えが、あなたの答えにもなるかもしれません。「根ほり花ほり10アンケート」では、さまざまな業界で活躍する“あの人”に、10の質問を投げかけます。今回は、メイクアップアーティスト・僧侶の西村宏堂さんが登場。きっと、「みんなちがって、みんなおんなじ」。たくさんの花のタネを、あなたの心にも蒔いてみてくださいね。
西村宏堂
1989年東京生まれ。ニューヨークのパーソンズ美術大学を卒業後、アメリカを拠点にメイクアップアーティストとして活動。2015年、浄土宗の僧侶となる。LGBTQ+活動家として「性別も人種も関係なく皆平等」というメッセージを発信し、ニューヨーク国連人口基金本部、ハーバード大学などで講演を行う。2021年にはTIME誌「次世代リーダー」に選出され、2022年にはNHK紅白歌合戦で審査員を務めた。著書「正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ」は7カ国語に翻訳されている。
私はメイクアップアーティストとして活動する傍ら、浄土宗の僧侶でもあります。
幼少期からお絵描きやお姫様ごっこ、おしゃれが大好きでした。高校卒業後にニューヨークの美術大学でアートを学び、授業のない時はメイクアップアーティストのアシスタントをしていました。その後独立してメイクアップアーティストのキャリアをアメリカで始めました。
小さい頃、厳格そうに見える仏教は好きではなかったのですが、お寺に縁があったことで仏教を学んでみたいと思い、僧侶の修行に参加。そこで仏教ではセクシュアリティに関わらずどんな人も平等に尊重されていることを学びました。海外にいたときにできたLGBTQ+の友達の多くは、宗教の理由で自分らしくいられないという悩みを話してくれた。それだったら私も同じ宗教指導者の立場から、誰でも自分の価値を感じていいんだということを伝えたいと思いました。
日本でも平等な権利の実現が課題だと思います。だからこそ私の仕事のやりがいであり楽しみは、仏教の教えとアメリカで学んだ美しさのアドバイスを通して人を応援できることです。内面と外見、両方からアプローチをして人に生きる希望や自分にもっと自信を持ってもらいたいと思っています。
僧侶の体に入ったディズニープリンセス
幼い頃からディズニープリンセスが好きで、彼女たちのように上品で勇敢でありたいと願っていました。私は可愛いぬいぐるみ、メイク、ハイヒール、魔法などのキラキラしたものが大好きで、そんな自分らしさをずっと大切に思っています。私は髪の毛を剃って、僧侶の衣を着ることもありますが、中身は夢を見て、人を応援するプリンセスのような人間が入っています。ディズニープリンセスのように人に夢や勇気を与えたいです。
たとえ人に反対されても、宏堂さんみたいな人もいるんだから、自分も自分自身が描いた目標に向かって進んでみようと思ってもらえると嬉しいです。
分かれ道に立った時には、社会の常識ではなく、自分の心に正直でいることを大切に決断してきました。「心よ、私は本当はどうしたいの?」と自分に問いかけ、一番最初に返ってきた答えが正直な気持ちだと思います。
何か迷った時には、自分の心がときめく道、自分の心がほっとする道を選ぶようにしてきました。自分の幸せや正直な気持ちを無視して、こうした方が社会的に評価されるだろう、こうした方が幸せに見えるだろうと、「社会が描く幸せや成功」を追いかけて、お金や社会的な成功を得ても、自分が心から幸せだと思えなければ意味がないと思います。もしそれで失敗したとしても、自分自身が決めたことだということで、満足できるのではないでしょうか。
行きたくないと思う時はその理由を考えることが大切です。仕事にやりがいを感じられない、行く意味がわからない、納得のいく時間の過ごし方ができていない、分かり合える仲間がいない、自信がない、そういった理由から行きたくないと思うのかもしれません。それを変えることができないのであれば、キャリアチェンジや転職を考えても良いと思います。
あともう一つ考えられるのは、自分の時間が足りていないからなのかもしません。休日にしっかり休めていなかったり、他人を優先しすぎて疲れたり。私のコロンビア人の夫によく言われるのは、休日は仕事をしてはダメだということです。昇進できるから、褒められるから、他の人より優位になれるから、そういった理由で仕事時間以外に無理をして仕事をしてしまうと、自分の人生が仕事に乗っ取られてしまう。
日本で生まれ育った私は海外の友人たちから、人生はまずは楽しんで生きる、その中で仕事もするという考えを学び、驚いたことがあります。仕事の時間が終わったらそれ以上は働かないことが基本で、そのあとは家族と時間を過ごすそうということ。楽しみや休みがあることが幸せな人生に必要だと教えてくれました。
日本では我慢が美徳、努力しないと幸せになれない、仕事は辛くて当たり前、そんな価値観がありますが、世界には無理しなくても元気で生きている人っていっぱいいるじゃないか、そんなに頑張って生きる必要ないんじゃないかと思ったことがあります。真面目な人が多いことが日本の良いところでもありますが、働きすぎやダラけすぎに偏らない真ん中の道を行く良いバランスが大切です。
ダメなわけないですよ、そしたら多くの人がダメになってしまうでしょう。「目標を持つこと」は自分を追い込まないとダメだという、社会からのプレッシャーをそのまま鵜呑みにしているからではないでしょうか。みんな頑張っているんだから、あなたも頑張りなさいというプレッシャーの渦から抜け出してもいいんです。
そもそもダメと誰かに判断される必要もないし、他の人があなたの人間性を評価することを許してはいけません。なぜなら、あなたが心の中でどう思っているのか、どういった境遇を生きているのかは誰にもわからないからです。それぞれのペースで、やりたいと思ったらそれをやればいいだけで、無理に自分の心に目標を強制したりすることは良くないと思います。休んだり、退屈さを感じることによって気がついたり、見えてくることもあります。目標を追ってばかりだと、休みのないマラソンのようになってしまい、いつか倒れてしまうでしょう。
また、違う視点ですが、ずっと目標にしていたことが叶った後に、目標がなくなるということもあります。そういった時は新しいときめきを探しにいくことが大切だと思います。例えば、映画を見る、旅行に行く、今までと違う友達を作る、新しいことを勉強するなど。好きなことに熱中できると楽しいですよね。私はスペイン語を習っているのですが、以前は文法や単語があまりわからず手探り状態だったのですが、最近会話がよく聞き取れる場面が増えてきて楽しさが高まってきています。上達が嬉しくてもっと勉強したいと思えるようになりました。
あとは、身の回りの整理整頓をすることも大切です。そうすると、視界がクリアになって次の道が見えてくるかもしれません。今まであまりしなかった場所の掃除をする、携帯やパソコンのデータ整理をする、エクササイズをして体の調子を整える、今まで行ったことのない場所に行って視点を変えるなどもおすすめです。いつも目標があるわけではないと思うので、頑張る時は頑張って、何かを達成したらしっかり自分にご褒美をあげていい。休む時は罪悪感を持たずにゆっくり休んでいい、だからこそ心身ともに元気で幸せに生きていかれると思います。
不安を感じて当然ですよね、明日何が起こるかは誰もわかりません。でも、いつどんなことがあっても受け止めるぞ、日々を後悔なく生きるぞという気持ちが大切だと思います。明日死んでも、あと100年生きてもいいように上手にバランスをとることが大切です。はっちゃけすぎず、楽しみも後回しにしない、どうせいつか生涯を終えるのだから、どういった生き方をしたら満足いくと思うかを紙に書いてみると良いと思います。私はアートを楽しむ、旅をする、大切な人とたくさん話すということが幸せで、そのような時間の使い方をしていると不安を感じることはありません。
あとは、他の人に不安について話してみることも大切です。一人で悩まないで、人と共感できると安心感につながると思います。私たちは一人じゃないし、みんな同じようなことで悩んでいるという一体感を感じられるだけで、その不安が溶けていくかもしれません。
お金と時間には限りがありますよね、だからこそ私は、できるだけ納得のいく使い方をしたいと思っています。せっかくお金を使うならばその対象にその価値があるのかを調べるようにしています。例えば、ふらっと入ったレストランが思ったより高額で、美味しくなかったら悔しいですよね、なのでレストランを選ぶときは入念にレビューを見ています。私は自称レストランソムリエと思っていて、誰かと食事に行く際は私に任せて!と言っています。私は写真を見るとその料理が美味しいかがわかる不思議な力を持っているのでほとんど失敗しないんですよ!
時間の使い方についてですが、私は友達は多い方がいいかなという根拠のない理由で、会いたくもない人と無理に付き合いを続けたりするのは時間がもったいないと思います。少し寂しいかもしれませんが、一人で時間を過ごした方が楽しめるのであれば、その方がいいと思っています。また、SNSも然り。何時間も携帯を見ていても、その後になって何の動画をみていたかすっかり忘れてしまうようなコンテンツに時間を費やすのも勿体無いですよね。そういった振り返りをして、満足のいくお金と時間の使い方が大切だと思います。
もし時間があったり、余裕があったら、まだ知らないことに挑戦したり冒険することが大切だと思います。お金と時間を投資して、自分の可能性を高めたり、見聞を広げ、自分の能力を磨いたりしたさきに、どんな人生が待っているかを考えると、ワクワクしてきませんか?
「あなたは何も間違ってないから、他の人がなんと言おうと自分のやりたいように、生きたいように生きていいんだよ」と伝えます。例えば私の生まれた平成の時代はLGBTQ+への理解がほとんどなく、差別的な価値観が多数派だったと思います。自分は何も悪いことをしていないのに、変態だとか気持ち悪いと思われるということを恐れていました。でも、自分は絶対に間違っていないという確信はありました。
その後、アメリカやヨーロッパで時間を過ごして、他のLGBTQ+の人と仲良くなったり、パレードに行って歴史を学びました。自分のセクシュアリティや自分が好きなものについて、何も恥ずかしがることなんてない。私が辛い思いをしたのは、その時代の人たちの無知さによるしわ寄せだったんだと感じました。だから、過去の自分には、無知な人の判断に負けてはダメ、自分をしっかり信じて!と伝えたいです。
そして、今の私の役割は、昔の私のように苦しんでいる人たちを励まし、もうそんなことが起こらないように発信し続けていくことだと思います。私だからこそ寄り添い、励ますことができるという自信があります。
いろいろな国を訪れ、いろいろな人の価値観を直接学びたいと思います。特に、宗教や文化の影響で自分らしく生きるのが難しいと感じる人々が、どうやって自分らしく生きることができるようになったのか、もしくはどういった課題があるのかを一緒に考えて、お互いを支え合いながら生きていきたいです。
この世界はいろいろな現実があって、私がまだ感じたことのない感情、想像できない日常を生きている人がいるはず。未知の世界に触れることで、自分の視野を広げ、成長していきたいです。常に進化し続けるライフスタイルを送っていきたいですね。
「自分らしく働く」というのは、自分がどう他の人に喜びを届けられるかを考え、得意な方法で楽しみながら働くことです。
楽しみながら仕事ができると、「働く」という意識を忘れて、心からの生きがいに変わるのだと思います。私は自分が好きなアートやおしゃれ、そして自分の体験を通して、自分に自信を持ちたいと思っている人たちを励ます仕事をしています。それは仕事というより、仲間を応援することだと思うので、あまり仕事だとは感じていません。どんな人でも、自分らしい働き方は見つかると信じています。やりがいを感じられること、楽しめること、自分らしさを輝かせられることを見つけることが幸せにつながると思います。
西村さんが自分の悩みに寄り添ってくれている感覚で、不安な気持ちを受け止めてくださり安心感が生まれました。⑤で夢が叶ったその後のアドバイスに「新しいときめきを探しにいく」という回答があります。「やり切った!燃え尽きたその先どうしよう…」となっていた私ですが、ときめきを探す旅に出ていようと前向きになれました。西村さん、ご回答くださりありがとうございました。