無理をしていた自分。今の自分にあった保護活動とは

大日方:そうなんです。「今まで通りでは難しい」と考えるようになった出来事がありました。きっかけは、身体に変化があったこと。歳を重ねて更年期のフェーズに入ったことで、眠れなくなったり、自律神経が乱れて心が沈んだりといった症状があらわれてきました。当たり前にできたことができないと感じることも増えて、そのしんどさを抱えながら仕事をする中で「つらい、休みたい」と思うようになった自分がいました。

フリーランスなので、仕事を縮小すれば収入も比例して減っていく。でも私は、仕事をセーブしても以前と同じ額を保護活動や支援に注ぎ続けていた。そんな時に起きたのが、「冷蔵庫事件」です。

大日方:私、20代の頃からの夢があって。アメリカナイズされた友人の家で見た、大きな冷蔵庫をいつか手に入れたいっていう(笑)。ドアの外側に製氷機がついていて、コップを押し当てるとガラガラ氷がでてくる冷蔵庫です。その夢が叶うチャンスが、最近ついに訪れたんです。

今、たくさんの犬や猫たちと暮らすための家を郊外に建てています(取材は2024年9月に実施)。自由にストレスなく遊べるように300坪ほどある土地を選んで、高い壁で危険から守って……と、動物ファーストな設計をしてきました。でも、初めて自分で家を建てるんだから、自分の夢だって叶えたい。そう思って憧れの冷蔵庫の値段を見た瞬間、「あ、買えない……」って愕然として。そして同時に、その冷蔵庫と同じ額を動物保護施設への寄付にあてている事実を思い出してしまった。

「あの寄付金があれば、私は冷蔵庫が買えるのに」って。

そう思った瞬間、はっとしたんです。ものすごくショックでした。今、私は寄付金をアテにした。これはもう「左手」の活動じゃない。私、限界なんだ――って。このままでは続けられないと思い知らされた気持ちでした。

大日方:冷蔵庫事件以降、今まで以上に「できる時にできる範囲で」に立ち返るようになりました。寄付の額を調整し、発信も無理なくやっていこうと。

そうやって自分の人生や保護活動との向き合い方を見直したことで、精神的な余白が生まれたのはとてもよかったです。保護活動をしていると、感情が大きく動かされますからね。特に動物たちの置かれている現状への強い怒りを感じる場面は多いから、余白を持って飲み込まれないようにしたいと思っています。

大日方:怒りを感じたら一旦冷静になって、ひと呼吸。発信する時は、視野が狭まっている状態から抜け出して、できるだけポジティブなアウトプットに変換することを心がけています。……と言うとそこまで怒っていないように聞こえるかもしれませんが、私もコントロールが難しいと感じるくらい心は燃え盛っていますよ(笑)

でも、私がすべきことは「自分の感情を伝えること」じゃなくて「動物たちへの悲惨な状況を変えること」。だから、そのためには発信の仕方もコントロールが必要だと考えているんです。怒りだけでは世の中は変わらないと思うから。

大日方:そうです。これが、日本の保護活動の現状をふまえた私なりの戦略的な発信です。日本は海外に比べて保護活動がまだまだ浸透していない。だから何だか怖いことだと思われないように、まずは興味を持ってもらうこと、ポジティブなイメージをもってもらうことが大切だと思っています。

日々殺処分が行われていたり、保護施設といいながら乱暴な扱いをする場所があったり、現実は憤りたくなることがたくさんある。その事実を伝えることは必要だし、率直に伝えてくれる方には過酷な現実と向き合う仲間として感謝しています。でもやっぱり多くの人にとっては目を背けたくなるような光景だからこそ、保護した子たちとの生活など楽しくて幸せな部分を発信する人も必要だと思うんです。

大日方:その考え方は染みついていますね。パーソナルスタイリストとして独立する前、17年間会社員として働いた経験が活きていると思います。「これ、いいですよ」と一方的に売りつけても受け入れられない。お客さまのほうから「これが欲しい」と言われるように、目の前のものの魅力を伝えることが癖になっています。

そしてありがたいことに、私は長くSNSを続けてきて、見てくださっている方がたくさんいます。**そんなバックグラウンドがある自分だからできることがあると思うんです。無理のない範囲で発信を続けるうちに、「私にも何かできるかも」と感じる人が増えたらなって。例えば、お金ではなくてもフードやペットシーツ・使わなくなったタオルなどを寄付してみるとか、ご家庭に余裕があるならミルクボランティアをしてみるとか……。私の発信がきっかけで、「自分にもできることがある」と気づいてもらえたらとても嬉しいですね。